※この記事は、「Sheetmetal メールマガジン」No.111(2019年7月27日配信)からの転載になります。
久しぶりに東京都大田区内にある京浜島のお客さまを訪問した。
今の京浜島は進出企業の半数以上が倒産・廃業で姿を消し、工場跡地は産業廃棄物がうず高く積まれる場所へと、その姿を変えていた。
大田区は、地域製造企業のネットワークを生かしたボブスレーのソリをつくる「下町ボブスレープロジェクト」をはじめ、“製造業の集積地”を区のアピールポイントとしてきた。
しかし、今では工場は減少を続け、ピーク時は9,000社以上あった工場も3,500社以下と、1/3にまで減少している。
かつて、大田区・品川区・目黒区などで操業する中小製造工場の騒音や振動が、周辺住民から公害として騒がれ、区役所が騒音・振動を測定し、規制値を超える企業には指導するような事態にもなった。
そこで東京都などが中心となって、東京湾を埋め立て造成した人口島 ― 城南島・京浜島・昭和島に工場を集団で移転させることを計画。
進出を希望する工場は組合を結成して、造成区域に土地を購入、工場移転することになった。
完成当時は、騒音・振動の心配もなく、中小製造業が安心して24時間操業できる都心の工場団地としてもてはやされた。
しかし、社員の通勤の足である公共交通機関の時間制限があるなど便が悪く、バブル崩壊・リーマンショック後は事業承継ができずに廃業したり倒産したりする企業が続出した。
結果として、土地を高額で買い取ってくれる産廃業者が島の住人として幅を利かせるようになり、今日のような姿になってしまった。
今回うかがった工場も目黒区から京浜島へ移転したが、当時18社で結成した組合の加盟企業数は現在では5社と、1/3以下となってしまったという。
しかも、事業を継続する工場も世代交代が進み、2代目・3代目が社長になっており、進出当時の様子を知る人も少なくなっているという。
鳴り物入りで東京湾を埋め立てて造成されたモノづくりのための人口島も、今ではその面影がなくなってしまった。
東京都や大田区は、区内におけるモノづくり企業の立地継続を支援するため、区内で操業を希望する中小製造業者に対し、操業環境改善事業等で応援しているが、これまで行ってきた支援策を見ると、必ずしも成功しているとは言えないようだ。
東京湾に浮かぶ人口島も時代の変化で大きく変わろうとしている。