※この記事は、「Sheetmetal メールマガジン」No.39(2017年2月28日配信)からの転載になります。
最近いろいろなところで医工連携という話が聞かれます。
先日もある財団が主催した産学交流会に参加しましたが、会場では協賛した大学の工学系研究室のポスターセッションが開催されていました。
注目すべきは、その1割ほどが医工連携に関連したテーマを取り上げていたことです。
外科用のメスや臨床に使うさまざまな機器、さらには循環器系や脳外科で使われる手術ロボットの研究などです。
その中でおもしろいと思ったのが、“マグネシウム”を素材にした医療技術の研究が日進月歩で進んでいることでした。
マグネシウムは体内に入ると一定期間で生体に吸収され、吸収された後も人体には無害な材料ということで、さかんに研究が行われるようになっています。
たとえば口腔外科などでは、チタン製のインプラントが使用されています。
チタンでできた歯科用インプラントは、顎の骨と結合する性質が高いといわれてきました。
チタンは生体親和性にすぐれ、膝や股関節の人工関節や骨折の時に使用するプレートなどにも応用されてきました。
ところが、マグネシウムは骨と結合するばかりか、生体と一体になってしまうので、一定時間が過ぎると生体と完全に同化してしまうようです。
また、血管縫合には細心の注意と医師のスキルが必要とされます。
ところが最近は、マグネシウムが生体に溶ける性質を利用して縫合する血管の中にマグネシウム製の細管を入れ、2つの血管を突き合わせて接着剤で接合する試みが動物実験などで行われているようです。
血管内のマグネシウム細管は1週間程度で体内に吸収されてしまうので、そこに血栓ができたりして血流が滞ることはないようです。
このほか、血管・気管・消化管・胆管などを内側から広げるために用いられる、金属製の網状の筒 ― ステントの材料としてマグネシウムの活用が考えられているということです。
特に欧州では、こうした研究が医工連携でかなり進んでいるようです。
従来、ステントの材料としてはステンレスなどが使われていました。
しかしステンレス製ステントは、狭窄部分を内側から支え続けますが、菅内に残り続けます。
いわんや異物なので、ステント血栓症の発生の可能性があり、この予防・研究が課題のようです。
その点、生体に吸収されるマグネシウムをステント材料に使えば、ステントによる血栓の発生は著しく軽減されると考えられています。
そこで、マグネシウムを加工して細管を製造する開発が医工連携で進められているようです。
今後、板金業界で身近な金属が医療分野でさまざまに活用されていく可能性が生まれています。
板金業界のみなさんも医療現場 ― 特に臨床の現場でどんなニーズがあるのか、注視する必要があると思います。
特に、最近は行政が、地域の中核大学の医学部・工学系の学部・学科と連携した医工連携イベントを頻繁に開催するようになってきました。
そんな機会に参加して人脈を築くことも必要だと思います。
今後も医工連携をテーマとした話題を提供していきたいと思います。