平成28年熊本地震に思う【メルマガ連携】

※この記事は、「Sheetmetal メールマガジン」No.21(2016年4月27日配信)からの転載になります。

 

4月14日から発生している「平成28年熊本地震」で被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。

 

この3月に熊本大学工学部で開催された行事に参加するため、熊本市を訪ねたばかりだったので、熊本城をはじめ、印象浅からぬ場所が今回の地震で大きな被害を受けている様子がテレビの画面を通して伝えられ、残念な気持ちを強く感じます。

 

ブログでも紹介した「熊本大学工学部研究資料館」の趣あるレンガづくりの建物も大きな被害を受け、現在は建物周辺への立ち入りも制限された状況だといいます。

日本の工学研究や教育・歴史の貴重な資料館だけに、復旧を待ち望みたいと思います。

 

2011年の3.11東日本大震災から5年しか経っていないというのに、こうした巨大地震が再び発生し、自然の脅威に対する人間の無力さを改めて強く感じざるを得ません。

その反面、困難な状況下でも避難所で周囲に配慮しながら生活する住民の方々の気遣いや逞しさに日本人特有のメンタルを感じ、日本人の強さを改めて感じます。

 

これまでに熊本地方で取材に伺ったお客さまの工場でも一部で被害が発生、サプライヤーからの部品供給が停止し、電装組み込みに支障が出ていました。

しかし、そのことよりもサプライヤーの状況を心配される姿に感銘を受けました。

持ちつ持たれつ、いつ立場が逆転するかわからない状況だけに、相手を思いやる気持ちにビジネスだけではない、日本人らしい優しさが伝わってきました。

 

地震発生の4日後に福岡県の企業を取材で訪問しました。

時期が時期だけに日程の変更も提案しましたが、快く取材に応じてくださいました。

社内にはお子さんが熊本県内の大学に在学中という社員が何人もいるということで、安否確認のために休暇を使ってでも現地に赴くことを勧めていました。

また、被災したサプライヤーの工場復旧を支援するため、社員数名を交代で派遣することを考える企業も現れ始めています。

 

3.11の際にはBCP(事業継続計画)/BCM(事業継続マネジメント)に対する認識はなかったものの、その後は行政や大手企業などが積極的にBCP/BCMに取り組むようになって、中小製造業界でも社員の安否確認ボードの設置や避難訓練の定期的な開催が行われるようになりました。

たまたま今回は震度7を記録した2度の地震が、いずれも深夜だったため、社員を避難誘導させることには至りませんでしたが、これが昼間に発生していたら、この程度の被害で済んでいたか、定かではありません。

 

また、サプライチェーンが地震によって寸断された際の調達先の代替対策は、今回も十分ではなかったようです。

トヨタ自動車は熊本県内で操業しているグループ会社の工場での部品生産が停止したことで、一部の部品の供給が停止、全国の工場で操業停止に追い込まれました。

米国のGMなども、日本からの部品供給が停止したことで北米の4工場が操業を停止しました。

 

こうした事例を見てくると、3.11の教訓がどこまで活かされているか、十分な検証が必要だと思います。

「災いは忘れた頃にやってくる」 ― この教訓を今一度振り返る必要があります。

 

まんざらではない日本の製造業/第28回優秀板金製品技能フェア入賞者を訪問 ― 未来をもらった【メルマガ連携】

※この記事は、「Sheetmetal メールマガジン」No.20(2016年4月2日配信)からの転載になります。

 

3月5日に表彰式が行われた職業訓練法人アマダスクール主催の第28回優秀板金製品技能フェアで厚生労働大臣賞、経済産業大臣賞、中央能力開発協会会長賞、「単体品の部」の金賞を受賞されたいくつかの企業に、受賞製品の製作過程の苦労話や、同フェアへの応募動機、目的などについて話を伺うため、お伺いしました。

(5月号で詳報予定)

 

ほとんどの会社に共通していたのが、直近2~3年間では大きな受注量を抱え、超繁忙期にあったにも、かかわらず、同フェアへの応募を会社方針で決定。

忙しい合間を縫っての応募作品の製作を全社的にバックアップ。

就業内・外にかかわらず、労務費や材料費、電気代、消耗品代などの費用を会社で負担、社員教育の一環として積極的に取り組んでいたことだ。

 

中には全社員を社員食堂に集め、応募概要を説明した後に参加者を募り、公募対象分野別にチームを編成。

チームごとに若手社員からリーダーを決め、テーマ決定から構想図・製品図・展開図の作成に始まり、抜き~曲げ~溶接の全工程をチームメンバーが手分けして取り組んだ企業もあった。

 

チームのメンバーは平均6~7名で「単体品の部」「組立品の部」「高度溶接品の部」「造形品の部」という募集部門ごとにチームを編成し、応募した企業もあった。

部門ごとにエントリーするため、参加する社員の数だけで30名超えになり、全社員の半数以上が参加している企業もあった。

一大イベント、という趣もある。

 

応募した社員の方々に話を聞くと、「CADで絵が描けたらカタチに出来ないものはない」という考えが多く、テーマ設定でも「うねり」「ひねり」などの複雑な形状が入っている。

形状的に見ると、どこから加工すればいいのかと戸惑うような製品を曲げ、溶接している。

製品を見ても、品質の高いを加工を行い、モジュール単位で組立している。

 

挑戦した社員の多くは年齢20代、30代と若い。

就業内での作業や、テストする材料費を考えると採算に合わないと感じることもあるだろう。

まして、材料費の高いステンレスやアルミを使うと材料費だけでも、ざっくり百万円単位の費用を会社が負担している場合もある。

経営者も自社の作品が果たして「成るか、成らないか」は、はなはだ不安ではあるが、社員のモチベーションアップ、垣根を超えたフレンドリーシップ、横断的な技術力アップなどを考慮すると、金額の多寡だけではない、という気持ちにもさせられる。

 

また、表彰式の会場で他社の応募製品を見ることで「この製品はどこから曲げたらこんな曲げ加工精度や通り精度が出せるのか」「溶接はどうやっているのか」「仕上げはどんな工程でやっているのか」などなど、日頃から自分たちが携わっている工程や製品と見比べてそのちがいを認識し、「もっと勉強しなければいけない」などと課題を見つけることもできる。

参加するだけではなく、出来上がって展示されている応募製品を見ているだけでも、社員の動機づけに役立っている。

 

「最近はITを活用したモノづくりが盛んに行われることから、図面を見る力―読解力が低下している。

「何でそんなことを覚えないといけないのか」と公然と話す社員も出てきている。

「デジタル化も必要だが、図面を読む、描く技術は最低限知っておくべきです」と語る経営者も見受けられている。

 

各社とも、受賞を機に「さらに精進して、もっと上位の賞を狙いたい、大臣賞を狙う」と宣言する経営者や作業者もおられた。

少なくとも4社のお客さまを見る限りでは、アナログとデジタルを使い分けるとともに、アナログ技術 ― 中でもベーシックな技術に関しては、社員研修、たとえばモノづくり現場体験などを通して、職場をローテーションする多能工育成を目指している企業もあり、心強く思った。

現場力を充実させることに燃えておられる社長が、まだまだたくさんおられることに安心するとともに、将来へ明るい希望も見ることができた。

 

まんざらでもない日本の製造業 ― 未来をもらった。