TPPという黒船でガラパゴス日本は開国できるのか?【メルマガ連携】

※この記事は、「Sheetmetal メールマガジン」No.10(2015年7月25日配信)からの転載になります。

 

TPP交渉が妥結する可能性が出てきたことから、最近、日本産農水産物の国際規格認証の話題がマスコミで取り上げられるようになってきた。

 

現在、世界的に通用する食品規格は「コーデックス規格」と呼ばれる。

 

1962年、国連の専門機関である国際連合食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が合同で、国際的な食品規格をつくることを決定し、食品規格計画の実施機関である食品規格委員会―英語名でコーデックス・アリメンタリウス・コミッション(CAC:Codex Alimentarius Commission)が誕生した。

 

現在、農水産物をはじめとした様々な食品が世界中で取引され、加工の方法も技術の発展によって様々に変化している。

こうした多様な食品を摂取する消費者の健康を守り、公正な国際貿易を促進することがコーデックス規格の大きな目的とされている。

 

現在、世界の貿易はWTO体制下にあり、この体制を規定したマラケシュ協定―いわゆるWTO協定を日本も批准している。

食品貿易で何らかの紛争が起こったとき、その裁定にあたるのがWTOだが、その際の判断基準となるのがコーデックス規格。

コーデックス規格そのものに直接の強制力はないが、WTO体制下では重要な役割を果たす。

 

TPP交渉が妥結し、米の自由化をはじめ、海外から様々な食品が輸入されるようになる一方、日本の米をはじめとした様々な食品を海外市場へ販路を拡大する必要がある。

そのためにもコーデックス規格で規定されている様々な食品の安全・衛生基準をクリアし、国際認証を取得する必要が生まれている。

 

そうした認証のひとつに「HACCP」(ハサップ)がある。

 

HACCPとは、食品の製造・加工工程のあらゆる段階で発生するおそれのある微生物汚染等の危害をあらかじめ分析(Hazard Analysis)し、その結果に基づいて、製造工程のどの段階でどのような対策を講じれば、より安全な製品を得ることができるかという重要管理点(Critical Control Point)を定め、これを連続的に監視することにより製品の安全を確保する衛生管理手法。

コーデックス委員会から発表され、国際的に認められた食品の製造・加工工程の安全衛生規格である。

これからの日本の水産物輸出の際には、HACCP認定を取得した加工施設で加工することが必須条件となる。

 

ところが日本では、これまで食品の大半が日本国内で消費され、それを輸出するという意識は生産者にもほとんどなかった。

それだけにTPP交渉妥結によって貿易自由化が加速すると、日本産の農水産物は国際市場で競争力を持たないどころか、土俵にもあがれない―ということになる。

 

そこで農林水産省などは、日本の農産物や水産物が国際競争力を持つために、国際規格―コーデックス規格に対応した国際的な認証への意識を生産者に持ってもらおうとキャンペーンを行い、食品加工工場のHACCP対応を加速させようとしている。

 

ここでも製造業同様、これまで巨大な内需だけで発展してきた食品業界関係者は国際化の意識の欠如や、対応への出遅れが目立っている。

 

「ガラパゴス日本」は製造業のみならず、農水産業の生産者にも見られる。

「ガラパゴス日本」からの脱却は実現できるのだろうか……。

台湾板金業界の変化対応力

半年ぶりに台湾を訪れた。

 

台北・松山空港に降り立つと熱気が体を包み、サウナ風呂にでも入っているようだった。

メガネやカメラのノレンズが見る間に曇ってしまう。

外気温は36度もあり、梅雨空の東京からくると、久しぶりの太陽に目がくらむ。

 

そのまま、桃園にある板金工場を訪ねたが、台湾の勢いを感じさせる工場だった。

董事長には2人の息子がおり、長男は中国・上海工場の責任者として上海に滞在。

本社工場は次男が総経理として、董事長の片腕となっていた。

 

仕事は鉄道車両部材から食品機械、工作機械のカバーなど様々。

鉄道車両は台湾初の民営車両メーカーで、住友商事や日本車両も資本参加する台湾車両が、台北市の地下鉄(MRT)から受注した地下鉄車両の運転台の筐体製作を受注している。

ショールームに製品が展示されているが、川崎重工業が設計したという運転台は、デザインも優れており、安全走行ができるよう、各種IT機器のモニター組込ができる筐体構造となっていた。

 

その他にも衛生管理の進んだ食品機械や自社で設計、デザイン・製作した工具箱など、設計力からモノづくり力を駆使する、積極的な営業姿勢が見受けられる。4階建工場の4階部には、社員の福利厚生施設としてバスケットコート、シャワールーム、飲食ができるサロンも設置されていた。

 

ところで、最近の台湾経済はピークに比べると台湾ドルが円に対して4割以上も高くなった影響で、工作機械業界などでは日本製品との厳しい競争にさらされている。

一部の大手工作機械メーカーの中には、減産を余儀なくされる企業も現れ、全体的には厳しい経営環境にさらされている。

 

しかし、半導体・FPD業界をはじめ、工業用コンピュータ(IPC)業界などのIT関連業界は好調である。

好調なIT産業は増産対応のため、台南・新竹など台湾IT産業の集積地での工場建設をさかんに進められている。

さらには旺盛な個人消費を背景に、ショッピングモールや高層ビル・マンションの建設ラッシュとなっており、建築関連も好調、業種間での明暗が表れている。

 

板金業界でも、工作機械産業が集積する台中地区では、工作機械カバー関係の仕事を受注する板金工場の業績が低迷している。

また、円安の影響でそれまで台湾で資材調達を行ってきた日系企業が、調達先を日本国内へ回帰させる動きが目立っており、日系企業から板金を受注していた板金工場の仕事量が急激に減少している。

そのため、台湾の板金業界では円安にも対応できるコスト競争力強化が大きな課題となっている。

 

そのために、大型の自動化投資を行って、コスト体質の強化を図る傾向も顕著になってきた。

また、中国へ工場進出した企業では、中国の人件費高騰、電気代をはじめとしたエネルギーコスト上昇の影響で、生産コストは台湾生産と遜色がなくなったとして、台湾へ製造回帰する企業が増えている。

 

もともと台湾の総人口は2,000万人強であり、生産人口も限られているため、どの工場でも外国人研修生の割合が2割前後となっている。

それだけに単純労働を自動化・機械化するという考え方は自然。

それだけに工場生産にICTを活用して自動化することには積極的である。

 

大半の工場には、図面を検証するため、PDF化された図面が見られるタブレット端末、コンピュータ端末が工場内に設置されている。

また一部では生産情報を共有するため、大型ディスプレイを工場内に設置、すべての社員がモノづくりプロセスを共有できるようにしている企業もある。

少なくともICT技術をモノづくりに活用するという視点では、日本以上に進んでいる部分もある。

 

政府に頼ることもせず、自分の城は自分で守る――という考え方も根強い。

それだけに、めまぐるしく変化する経営環境への変化対応力とセンスは抜群だ。

改めて台湾板金業界の変化対応力の強さに感嘆するとともに、変化を受け入れ、挑戦する板金工場の経営者のアグレッシブな姿勢に感銘した。