※この記事は、「Sheetmetal メールマガジン」No.28(2016年10月12日配信)からの転載になります。
ビザの更新で北米から一時帰国した知り合いと何年かぶりに会った。
話題は11月8日に行われる大統領選の行方。
テレビ討論に対するメディアの調査ではクリントン候補が一歩リード、ネット調査などではトランプ氏がリードと、僅差で競い合っている。
それだけに「市民レベルではどうですか」と尋ねると、金融界で働く“エスタブリッシュメント”といわれる人たちの多くは「トランプ候補は品がなく、大統領としては相応しくない」、クリントン候補も「嘘が多くて信頼に欠ける」と答えるそうで、お互い決定打に欠けているようだ。
しかし、表立った発言とは裏腹に、エスタブリッシュメントといわれる人たちの多くが、トランプ候補の発言 ― マイノリティへの優遇措置の見直しや海外からの難民、不法入国者の取り締まり強化、同盟関係にある日本・ドイツ・韓国などの「安保ただ乗り」 ― といった発言には根底で同調する声が多いという。
米国は建国以来、白人の保守的エリート層をWASP(白人・アングロサクソン・プロテスタント)と呼んでいた。最近は純粋なアングロサクソン出身者が少なくなってきたこともあって、マイノリティではない白人を総称して「WASP」と呼ぶようにもなっているという。
この層の多くは、建前ではトランプ候補の発言を批判するものの、心情的にはこれを支持していると彼は語っていた。
これまでは“世界の警察官”を自認してきたアメリカも、ベトナム戦争、アフガニスタン紛争、イラン・イラク戦争などへの軍事介入の失敗と、それに対する批判、国民に蔓延する厭世的世論が広がる中で、その役を降りようとしている。
そしてそれは欧州をはじめとして世界中で広がり始めた内向き志向、保守化の傾向ともベクトルが合ってきている。
それだけに、下馬評とは異なる結果が出ないとも限らない、とのこと。
やはりビジネスの現場でも大統領選は話題にのぼるようで、会話の中にも、そんな傾向が感じられる、と語っていた。
肝心の経済動向について話を聞くと、上期はもうひとつ力強さがなく、伸びも鈍かったが、8月から需要は回復してきており、自動車、航空機、医療器械、農業機械、建設機械、住宅関連産業では堅調な需要が続くようになっている、と話してくれた。
一時期、原油価格の高騰でガソリン価格も上昇、省エネが叫ばれ、オバマ大統領誕生の際もクリーンエネルギーに対する主張が大きな評価を得た。
選挙戦でも大きなテーマとなった。
しかし、シェールガス革命が起こり、2014年にアメリカはサウジアラビアもロシアも抜いて世界最大の産油国になった。
地下深いシェール(頁岩:けつがん)層にある原油や天然ガスを掘削する技術が、エネルギー生産に革命を起こした。
これによってアメリカでは再び、オートマチック、革張りシート、大型車という「大きなことは良いことだ」という風潮が再来。
もちろんテスラモーターズ社の電気自動車の人気も高いが、やはりアメリカ人には節約という感性が希薄なのかもしれない。そんなわけで高い消費マインドが経済活動の良循環につながっているという。
2017年の世界経済は米国大統領選の結果の影響もあるが、しばらくは世界経済を牽引する機関車になってくれる気配 ― というのが彼の見立てだった。