※この記事は、「Sheetmetal メールマガジン」No.24(2016年6月29日配信)からの転載になります。
伊勢志摩サミットの成果を報告する記者会見で安倍首相は「世界経済は危機に陥る大きなリスクに直面している。G7は強い危機感を共有し、協調して金融政策、財政政策、構造政策を進め、3本の矢を放っていくことで合意した」と強調した。
また、サミット合意文書では「時宜を得て適切な政策対応を取らなければ、世界経済が通常の景気サイクルを逸脱して、危機に陥るリスクがあることを認識している」と発表された。
しかし、この総括に対しては「首相の我田引水である面が拭えない。安倍首相が政治決断を迫られている消費税増税の先送りを、公約に反して決断するための口実に、いわば利用したと言える」という手厳しいマスコミの論調もあった。
特に、英国やドイツなどは金融政策や財政出動には消極的とも伝えられていた。
ところが先ごろ行われた英国の国民投票で、EUからの離脱派が僅差で勝利した。
欧州内ではそれに続こうとする動きもみられ、目を離せない状況が続いている。
英国は2年以内にEUから離脱することが正式に決まると、直後から世界の金融株式市場は大混乱となり、世界の株式時価総額は330兆円が失われたという。
日本でも6月24日の日経平均株価は前日比1286.33円安(▲7.92%)の1万4952.02円と、年初来安値を更新した。
2014年10月21日以来およそ1年8カ月ぶりの安値水準になった。
下げ幅はITバブル崩壊時の2000年4月17日以来、約16年2カ月ぶりの大きさを記録した。
また、円相場は一時、1ドル=99円近辺と約2年7カ月ぶりの円高水準をつけた。
安倍首相は「他のG7諸国と緊密に協議し、経済・金融面で必要な対応をとっていく」として、関係当局に対応を指示した。
それを受けて日銀は、円高に対しては「市場介入も辞さない」としている。
6月27日週明けからの株式・為替市場の動向もリーマンショックの時に見られたパニック売りは見られず、英国のEUからの離脱が事前に予測されていたこともあって、市場は落ち着きを取り戻しつつあるようだ。
英国のEU離脱はかねて予測されていたものの、実際に離脱が決まることによる実体経済への影響はこれから懸念される。
離脱報道を取材先の経営者とともに見ていた時、真っ先に経営者が危惧されたことが、英国に進出している得意先の業績だった。
「英国を拠点にEU市場拡大を計画し、工場も建設した。これからだ、という時にこの結果を受けて、得意先の欧州戦略が大きく変化する可能性が出てきた。それに伴ってサプライヤーへの調達方針の変更が懸念される」と、感想を述べられていた。
離脱決定してすぐの日曜日に知人と会った。
その際に知人は「娘が契約社員として働く輸出関連企業が、これによって業績を見直し、雇用調整を実施、契約打ち切りを行うのではないか、と心配している」と内情を打ち明けてくれた。
今回の離脱報道で「契約切り」を心配する若者が日本でも出るほど、国民にも心理的な影響を与え始めている。
このことが今回の参議院選挙の有権者にどのような影響を与えるかわからないが、欧州ではスペイン総選挙の結果にも影響が及ぶといわれている。
今後、EUからの離脱が他国にも波及し、経済統合を目指してきた欧州経済に大きな波紋を与えるのは確実だ。
さらに今回の離脱のトリガーには、増え続ける難民問題があるだけに、経済面、人道的な面など、貧困をはじめとした世界が抱える課題を改めて再認識させてくれた。
少子高齢化、人口減少を迎えているわが国でも、今回の問題は決して他人ごとではなく、「他山の石もって玉を攻むべし※」とした故事に学ばなければならない。
今後の動向を注視したい。
※他山の石とは、他人のどんな言動でも、たとえそれが誤っていたり劣っていたりした場合でも、自分の知徳を磨いたり反省の材料とすることができるというたとえ。つまらない石でも、それを砥石として自分を磨く材料になる、とも。