※この記事は、「Sheetmetal メールマガジン」No.95(2018年12月28日配信)からの転載になります。
世界経済の先ゆきに懸念が広がって、世界的に株価の下落に歯止めが効かない。
ニューヨーク市場ではクリスマス休暇を前にして、今年の最高値より18%も株価が下落した。
これを受けて東京市場も一時1,000円を超える値下がりとなり、株価は2万円を割り込んだ。
米中貿易摩擦が長引くことによる負の影響から、世界経済の先ゆきに暗雲が立ち込めつつある。
とりわけ米国政府機関の一時停止など、トランプ大統領の強引な政治手法に対する不安が、ここへきて高まってきている。
1年を漢字1文字で表す「今年の漢字」。2018年は「災」だった。
台風や地震、集中豪雨などの自然災害によってもたらされた「災」とはちがい、景気は人為的な結果に起因する場合も多い。
この株価低迷の原因は、自国第一主義を掲げ、経済的に追い込まれた米国中産階級の支持を得て大統領に当選したトランプ大統領の、政権基盤にほころびが目立ってきていることにほかならない。
2017年1月に発足したトランプ政権では、外交の中核を担う国務長官をはじめ、大統領首席補佐官や大統領報道官など、要職の辞任や更迭が類を見ない多さとなっている。
中には、就任からわずか10日で解任された司法長官代理もいる。
米・ブルッキングス研究所によると、トランプ政権でのホワイトハウス高官の離職率は65%と歴代でも突出、先日もマティス国防長官が辞任に追い込まれた。
11月の中間選挙では、こうした独善的な大統領に対して民意がどのような結論を出すのか注目されたが、下院では野党である民主党が議会過半数を抑えたものの、上院では与党共和党が過半数を確保。
民意は必ずしもトランプ政権に「No」ではなかった。
この結果に関してはさまざまな分析が行われているが、最たる原因は、アメリカ国民が基本的に内向きとなり、保護主義が台頭することで、「America First」の考え方がアメリカ国内で受け入れられているからにほかならない。
アメリカでは1823年に第5代大統領・J.モンローが、(1) アメリカ大陸は、今後ヨーロッパ諸国によって将来の植民の対象と考えられるべきではないこと、(2) アメリカはヨーロッパの政治に介入しないこと、(3) ヨーロッパ諸国の圧迫、その他の方法による西半球諸政府に対するいかなる干渉もアメリカへの非友好的意向の表明とみなすこと ― などと、議会へ送った教書のなかで述べた。
これは所謂「モンロー主義」と呼ばれ、アメリカ外交の孤立主義を象徴する言葉となっている。
トランプ政権の政策も孤立主義的な色彩が強いことから、モンロー主義に喩えられている。
しかし、195年前の時代と比べると、現在の世界情勢は大きく変わっており、モンロー主義だけでは言い尽くせない。
特に米中貿易摩擦は、中国の建国100周年にあたる2049年に世界強国になることを目指す前段階として、「中国製造2025」を打ち出し、2025年に「製造強国」を目指す中国のやり方は認められないとするアメリカとの覇権争いの様相を示しているだけに、根は深い。
中国政府はハイテク分野、とりわけ半導体製造に関して自国開発・調達を目指すため、先ごろ鴻海およびその傘下にあるシャープと共同で、次世代の半導体製造に乗り出すことを発表した。
中国が半導体を自国で製造・調達するようになれば、かつての粗鋼生産がそうであったように、一気に供給過剰となって半導体市場は値崩れを起こし、世界的な半導体不況が来るとの見方がすでに出てきている。
13億人以上の巨大な市場を持つ中国が目を覚ましたことで、世界経済は大きく動こうとしている。
「中華思想」を持つ中国だけに、先々への不安は、モンロー主義のアメリカ以上に世界に不安を招いている。
2019年、世界は“不確実”な時代に突入しようとしている。