※この記事は、「Sheetmetal メールマガジン」No.25(2016年7月29日配信)からの転載になります。
先日、福岡市内で行われた公益財団法人天田財団の「平成28年度九州産学交流会」に参加させていただいた。
記念講演では、熊本大学先進マグネシウム国際研究センター・センター長、河村能人熊本大学大学院教授による「KUMADAIマグネシウム合金とMuddle Through」と題した新材料のお話を聞くことができた。
河村教授は「KUMADAIマグネシウム」開発に至るご自身のご苦労を、シリコンバレーのベンチャー企業の合言葉となっている「Muddle Through」(マドル・スルー)に喩え、「後悔しないためにはやるしかない。泥沼に飛び込み、必死にもがいて、這い上がると、もがいた分だけ出口に近づける」と公演された。
マドル・スルーという言葉は、かなり前にカリフォルニア大学バークレー校に留学されていた大学教授から教えていただいたことがあった。
「プロジェクトに行き詰まり、進む道も分からなくなることはよくある。シリコンバレーで起業するベンチャー企業家は、起業しても事業がうまくいかず、倒産の危機に立たされることがある。だが諦めることなく、あらゆる解決策を考え、実行し、もがきながら、それを打破していく。そうやって泥沼を乗り越えることをシリコンバレーでは“マドル・スルー”という。何度も襲いかかる行き詰まりをいかにマドル・スルーできるかが、シリコンバレーで生き残れるかどうかの境目となっている」と、成長の価値観を話された。
河村教授も「KUMADAIマグネシウム」を開発する段階では何度も行き詰まり、プロジェクト崩壊の危機にもあった。
しかし、その泥沼の中でもがき、苦しむことで開発に成功された。
むろん、マドル・スルーしたからと言って、成功する可能性は、必ずしも高くない。
しかし、困難がないということはないのだから、粘り強く、また、自分のアイデアに惚れて惚れて惚れまくらなくては、成功はおぼつかない。
積んでは崩れ、崩れてはまた積みなおす。
そのような地道な積み重ねの結果、熊本大学ではマグネシウムの新しい原子配列構造を発見、それが「不燃マグネシウム」であった。
先延ばしにせずに、今が大切、と強調された。
この話を聞いて感動した聴講者は私以外にもおられたようで、講演会終了後の懇親会場でお目にかかった研究者や企業経営者が「素晴らしい言葉」、と感想を漏らされていた。
泥沼の中は真っ暗で上下左右も、出口が何処にあるのかも分からない。
だから、ひたすらもがくしかない。
言い方を変えれば、頭で考えているだけではだめで、とにかく体を動かし、行動に
移さなければならない。
「出口はこっちだ」という自分の信念を信じ続け、ひたすら行動し続けること。
そうした行動の先に、出口という結果に出会える可能性があるということを教えてくれた。
こうしたことは日々の仕事や行動にもあてはまる。ともかく自分の判断を信じて行動することが、出口への近道 ― ということを改めて感じさせられた。
※Muddle Through(マドル・スルー)
「泥の中をくぐり抜ける」「先行きが見えない中でも、手探りで困難に立ち向かう」といった意味合い。