※この記事は、「Sheetmetal メールマガジン」No.13(2015年10月28日配信)からの転載になります。
航空宇宙関連機器や医療機器などの分野が、これからの成長産業として期待されている。
板金業界でも、これから狙いたい分野として、これらの業種を挙げる企業が増えている。
特に、地方創生の観点から、県や市が地元の大学など研究機関と連携し、地域にこうした関連産業を誘致して地場産業と融合させながら地域経済を発展させたいと、産業クラスターを立ち上げるケースも増えている。
こうした産業クラスターに板金関連の企業が参加しているケースも見受けられる。
しかし、都内で開催される関連業界の専門見本市などを見ても、行政や公益法人が地方創生の「御旗」のもと、鳴り物入りで出展しているものの、展示されている製品は、それらの関連業種の製品ではなく、コアとなる技術・設備を備えた企業が地元にもあります、というアピールの意味合いが強い。
関連業界のバイヤーの目線から見ると、物足りないものが多い。
こうしたことから出展の事務方を担っている行政の担当者からは「ビジネスとして成立している案件は少ない」と弱気な発言も聞かれる。
実際、行政からの呼びかけで、産業クラスターや異業種連携のプロジェクトに参加した板金関連企業のトップも「発足当時は夢があるので、やるぞ!と、意気込んでいた。しかし、時間の経過とともに主要メンバーが次々と離脱。行政は税金を投入し、国からの補助金をもらっているので、何とか成果を出したいというが、残った参加企業への負担だけが重くなって、当社も離脱した」と現実を語っている。
実際に航空宇宙産業や医療機器産業に参入しようとしても、そのハードルは高い。
製品の特性上「安全・安心」が重要になるため、製造設備や製造プロセス、作業者のスキルや品質管理に関連して、様々な認証取得や型式登録が必要になる。
ISOやJISのみならず、米国・EUなどが認証する国際規格の取得も必要になっている。
認証取得ができても、今度は得意先から仕事を発注してもらう前提として、認定工場や型式登録が必要になる。ここにも時間とコストがかかる。
関連する機器を受注できるメドが立てば、今度は加工設備に多額の投資をしなければならず、イニシャル投資はかなりの高額になる場合が多い。
ところが、医療機器メーカーなどは市場がグローバル化する中でボリュームゾーンの製品の多くを、中国をはじめとした海外で生産する「適地適産」の傾向が顕著で、従来から取引していたサプライヤーでも海外移転による仕事量の減少が見られている。
そういう実態があるので、騒がれている割には参入するメリットは少ない。
ところが、ここで日本企業が考えなければいけないのは、市場がグローバル化しているだけに、サプライヤーの競争もグローバル化してきていることだ。
海外――特に中国などの新興国には、日本のようにサポートインダストリーが十分に育っていないので、仕事を受注できるサプライヤーというのは規模も大きく、板金のみならず、プレス加工から金型、機械加工設備をターンキーで設備している企業が多い。
当然、彼らは後発だけに、仕事を受注するために必要な各種認証や認定は事前にしっかりと取得。
作業者のスキルを補う機械に依存、最新設備を導入する。
そのための設備投資も惜しまない。
認証取得に費やす時間とコストを計算する日本のサプライヤーと比較すると、はるかに決断が早い。
認証が取得でき、設備も整うと、一気呵成に得意先の調達部門に出かけていき、自分の会社に仕事を出してもらえると、こんなメリットがある――と効果的にプレゼンする。
自社が保有する加工価値を徹底してアピールする。
そんな新興国のサプライヤーの営業姿勢を見ていると、航空宇宙産業や医療機器産業に参入すると決めたら、徹底してブレないで、初志貫徹することが重要と感じる。
これからも成長産業である航空宇宙産業や医療機器産業を目指す板金サプライヤーは多いと思いますが、参入にあたってのハードルが高いことを認識するとともに、業界基準である規格やレギュレーションの取得が必要不可欠であることを認識して取り組むべきだと思います。