私は常日頃から社員や知り合いには、三つの目を持つように、と話している。
すなわち現場を見る「虫の目」、全体を鳥瞰する「鳥の目」、そして潮目を見る「魚の目」だ。
今、「魚の目」で見ると景気の変化を予感させる三つの懸念材料が生まれている。
いずれもアベノミクスに関連するものだ。
一つは株価。
第2次安倍政権が発足後、日銀による「異次元緩和」が発表されると、株価は徐々に上がり始め、ついには2万円の大台をつけるに至った。
この株高を支えていたのが運用資産137兆円を抱える、年金積立金管理運用独立行政法人(以下、GPIF)。
安倍政権は、消費増税実施による景気の落ち込みを避けるためには、日銀の追加金融緩和とともに、GPIFの日本株式組み入れ比率拡大で株価を上昇させる必要があるとして、2014年末で19.8%だった株式の運用比率を25%まで高めるべく、活発な日本株買いを進めた。
3月には地方公務員共済組合連合会など3つの共済年金も、GPIFと同水準まで日本株の保有比率を高めることを発表。
いわば官製の株価上昇対策――PKO発動による効果である。
しかし、GPIFなどの基金も7月末までに運用比率が25%の上限に近づいている。
こうした動向を見越して株価は、中国経済減速の影響もあるが、下振れしはじめている。
むろん上場企業の今期業績は前期から大きく改善しているので、株価の大きな落ち込みリスクは少ないと見られている。
しかし、中国・上海株式市場の動向により、不透明感は増している。
二つめは為替。
為替動向も1ドル124円台という円安水準まで推移したが、黒田日銀総裁が国会答弁で、これ以上の円安は望まないという主旨の発言を行い、今後は円安から徐々に円高へ振り子が戻る可能性も指摘され始めている。
そして三つめが、月ごとの公共投資の伸び率が前年同月比でマイナス成長となり、減少幅も徐々に拡大してきていることだ。
2011年の3.11東日本大震災からの復興需要のほか、2020年の東京五輪開催に向け、首都圏では国立競技場をはじめとした競技施設や交通インフラなどの建設投資が引き続き行われているが、全国で見ると地方を中心に公共投資の落ち込みが目立ち始めている。
景気回復の影響で税収が伸び、公共投資が増えることに期待する向きもあったが、プライマリーバランスを考えると、やむをえない。
アベノミクス3本の矢への期待感は薄くなり、秋口から年末に向かっての景気は、下振れするリスクが高まっている。
平成26年度補正予算で実施された各種補助金、助成金効果で上期の中小企業の設備投資はかなり盛り上がり、機械メーカー各社は半年分の受注をほぼ4カ月で達成する勢いのところが多い。
しかし、こうした設備の稼働が始まる下期には、数多くの最新設備が業界に入り、設備過剰感が生まれてくる可能性を指摘する声もある。
すでに半導体製造装置や工作機械業界では、下期は上期に比べると受注は低下するとの予測が大勢を占めており、設備力は増えたものの、それを賄う仕事量が減少する可能が指摘されている。
また、生産性が高く、自動化・無人化システムで導入された最新設備が稼働し始めると、受注競争が激しくなって、設備力の競争が生まれる可能性もある。
この結果として企業の収益性が悪化するとともに、最新設備を導入できた企業と、そうでない企業との企業力の差が生じて、優勝劣敗が鮮明になる可能性も高い。
いずれにしても下期の経済には厳しい見方をするとともに、設備力だけに頼るのではなく、他社との差別化につながる「コアコンピタンス」が自分の会社では何なのか、しっかりと見極めることが必要となっている。