122年前の工場で世界シェア70%のジェットエンジン用シャフトがつくられる


第2次世界大戦末期の1945年、日本海軍が開発した国産戦闘機「橘花(きっか)」に搭載された日本初のジェットエンジン「ネ-20」を開発した航空エンジンメーカー、株式会社IHI(東京都江東区豊洲3-1-1 豊洲IHIビル)の呉第二工場(広島県呉市昭和町2-1)を見学する機会があった。

 

IHIはよく知られているように、ペリー来航に伴う欧米列強への対抗を目的に、幕府の命を受けた水戸藩が1853年に「石川島造船所」として設立した。

1866年には日本初の蒸気機関を搭載した軍艦「千代田形」を完成。

明治維新後の1876年には日本初の民間造船所となり、「石川島平野造船所」に変更、1945年、「石川島重工業株式会社」に改称した。

 

一方、1907年、兵庫県相生村(現・相生市)の村長、唐端清太郎が「播磨船渠(せんきょ)株式会社」を設立。

1929年、「株式会社播磨造船所」に改称。

1945年には日本初の国産ジェットエンジン「ネ-20」を開発し試験飛行に成功した。

 

1960年、陸用機械を取り扱う石川島重工業、大型船舶を取り扱う播磨造船所の両社が合併、「石川島播磨重工業株式会社」が誕生。

2007年、グローバルな総合エンジニアリング企業への変革を目指して社名を「株式会社IHI」に変更、現在に至っている。

 

現在、IHIグループは、「航空・宇宙・防衛」「資源・エネルギー・環境」「社会基盤・海洋」「産業システム・汎用機械」の4事業に取り組んでいる。

航空・宇宙・防衛の分野では、航空機用・艦艇用・発電設備用のジェットエンジン・ガスタービンの部品製造、エンジンの整備、部品修理などを行う。

 

生産拠点は呉第二工場・相馬第一工場・相馬第二工場・瑞穂工場の4工場がある。

呉第二工場では、ジェットエンジン・ガスタービンの大型部品の製造や修理、陸用及び舶用ガスタービンの組み立て、運転試験を行っている。

 

呉第二工場の敷地面積は約47,800㎡、建屋面積は約40,100㎡。

1889年に呉鎮守府造船部呉海軍工廠(こうしょう)として設立された。

1946年に株式会社播磨造船所呉船渠(せんきょ)、1954年に株式会社呉造船所となり、その敷地内にあった工場の一部分が1968年に石川島播磨重工業株式会社タービン・風水力機械専門工場、1980年以降、株式会社IHI航空宇宙事業本部呉第二工場となっている。

 

呉第二工場で製造するジェットエンジンは、防衛省向けは、主力戦闘機F-15J、支援戦闘機F-2、同F-4EJ、中等練習機T-4に納入した実績を持っている。

民間航空機用ジェットエンジンは、ボーイング777に「GE90エンジン(推進力52トン)」を、エアバス320に「V2500エンジン(推進力11トン)」などを納入。

民間航空機用エンジンの構成製品である「LPシャフト(筒状の回転体)」、「LPTディスク(皿状の回転体)」、「ファンフレーム(静止構造体)」、「ファンケース」を開発・製造している。

 

特にシャフトは、世界中の民間航空機用エンジンの40%が、また、大型エンジンの70%が呉第二工場で製造するロングシャフトを採用している。

そのため、呉第二工場は世界一のシャフト工場と呼ばれている。

 

このほか同工場が製造するガスタービンエンジンは、陸用分野では、常用・非常用の発電設備・コージェネシステムの原動機として採用されている。

IM150(出力1,100kW)からLM6000(同44,000kW)までの6タイプがある。

一方、舶用分野では、防衛省が保有するイージス艦の主機として搭載されており、世界で最も信頼性が高いガスタービンLM2500シリーズ(最大28,000馬力)など、2タイプがある。

 

工場は122年前に建造された建屋をそのまま活用しているとは思えない往時の柱やレンガ造りの遺構が残る。以前は明り取り用としてつくられ、今は漆くいで覆われた窓枠などをみると、往時の面影を垣間見ることができる。

また、工場内の柱は当時の柱がそのまま使われており、当時の建築学も尊敬に値する。

一方、設備機械は最新の5軸制御マシニングセンタ、ターニングセンタが何十台もライン稼働で、大半が24時間稼働に対応している。

 

ロングシャフトは長いもので3mもあり、加工誤差は±1μ以下に抑えられており、超精密級の加工が行われている。

その一方で基準面の削り出しには今でも汎用旋盤が活躍しており、アナログとデジタルを融合させた工場となっている。

現在、年間4,000本のロングシャフトが製造され、ロールスロイス、GE、プラット&ホイトニーという、世界3大ジェットエンジンメーに納品されている。

 

航空宇宙産業はこれからの産業として期待されているが、コアであるジェットエンジンの中枢を「Made in Japan」が担っていることを身近に感じることができ感激した。

工場脇の石積みのドッグは、戦艦大和が建造を終え、艤装工事を行うときに係留されていたドッグとのこと。

 

現在は、海上自衛隊のイージス艦や補給艦、護衛艦などが修理のため係留されていたが、海軍工廠時代の名残をとどめながら、今では、最新のハイテク技術を駆使して信頼性が極めて要求されるジェットエンジン工場に生まれ変わっている姿に改めて感動した。

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