中小企業にも知財戦略が必要 ― 「下町ロケット」登場人物のモデルとなった弁護士のお話


10月18日からTBS系でテレビドラマ「下町ロケット」が始まる。

 

2011年に直木賞受賞作品となった池井戸潤氏著「下町ロケット」が原作で、ここに登場する神谷弁護士のモデルとなった内田・鮫島法律事務所の代表パートナーである鮫島正洋弁護士とお目にかかる機会があり、中小企業の知財戦略に関して面白い話を伺った。

 

「下町ロケット」では、優秀な技術を持った中小企業が特許・商標などの知財を有効に生かせず、大手に対して不利な状況を強いられるケースを描いているが、技術を持っている中小企業にとって知財が役に立つことはあるのだろうか、という素朴な疑問があっただけに鮫島弁護士の実例を交えた話は参考になった。

 

「中小企業の現場で知財が役に立たないかというと、そんなことは全くありません。

技術開発に力を入れて特許を取ることで、競合との競争でも優位に立てる。

また、特許を出すことによって、技術者のやる気が出るし、技術力があるということで銀行との関係も良くなるし、PRにもなります。

実利面もさることながら、もう少し無形的なものを考えた方が良いと思います」

 

という話で始まったが、その後はそんなこともあるのかと驚かされた。

それが「必須特許のポートフォリオ」という話だった。

 

液晶製造を例に挙げ説明されたが、液晶製造に参戦する企業は一般的にはそれぞれが、液晶製造に関連して様々な特許を取得。

結果として、産業界ではコンペチター同士がお互いの特許を使いあう、持ちつ持たれつで競争している。

 

そのため、液晶製造に参戦する場合には、液晶製造に必須の特許を持っていないと参入はできない。

すなわち、「必須特許を取得することが市場参入の前提条件」になる。

そのため、企業は知財に投資して市場から排除されないためにも必須特許を押さえ、10年、20年後までの市場を考えなければならないという。

 

「知財に投資しないと将来にわたって膨大な機会、売上損失を招く可能性がある」と指摘される。

知財管理のコストとリターンを考える時、特許印紙費や弁理士費用に対応するリターンが不明、と投資に後ろ向きとなる経営者がいる。

特に中小企業ではその傾向が強い。

しかし「費用対効果も市場参入へのキップという、無形の効果までを考えると効果は大きいはず」と指摘される。

 

そしてある中小企業の実例として、ある水産加工物を加工する機械を開発・製造する中小企業のお話をされた。

 

その企業が製造する水産加工機械の市場は年間でも3億円規模と小さく、大手企業が参入するような市場ではない。

そこで、この企業は徹底した知財戦略で水産加工機械の製造に必須の特許を次々と出願した。

その結果、同業他社も特許リスクを冒してまで、この市場に参入するメリットは少ない、と参入をあきらめた。

結果、同分野の水産加工機械のシェアは100%、年間3億円という市場が丸まるこの企業の懐に入るようになった、という。

 

価格決定力があるので利益率も高い。

そうなると年間の知財管理コストは問題にならなくなった。

しかも、このほかの水産加工機械にもこのビジネスモデルを踏襲、同社は水産加工機械分野ではニッチトップになった。

 

一般に知財戦略は模倣から自社の製品を守る、他社との競争で優位に立つこと――などがその目的として考えられているが、そのほかにも新たな販路開拓、サプライヤーとの交渉優位、広報PR活動、他社との業務提携ができる――などと様々な波及効果が期待できる、ということを勉強させてもらった。

 

鮫島弁護士との面談では、途中からお酒も入りリラックス、2時間ほどの間に、酒量も増えたが、お元気そのものだった。

 

再び「下町ロケット」のテレビ番組の話。

 

「ある時、ドラマ制作スタッフが事務所に訪ねて来られたので、ひょっとしたら『ゲスト出演でも』という話か、と当日はお気に入りのスーツで待っていた。しかし、出演依頼ではなく、脚本中の法律的な解釈部分の監修をお願いしたいという話でした」と残念そうに、笑いながら話をされた。

 

同氏は東京工業大学金属工学科を卒業後、藤倉電線株式会社(現・株式会社フジクラ)に入社。

エンジニアとして電線材料開発に従事、筆頭発明者として40件を超える特許出願を行い、同社在職中に弁理士資格を取得、弁理士登録をした後に、弁護士試験に合格される、というエリート。

 

企業の現場で培った現場力があり、大変勉強になりました。

 

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