台湾板金業界の変化対応力


半年ぶりに台湾を訪れた。

 

台北・松山空港に降り立つと熱気が体を包み、サウナ風呂にでも入っているようだった。

メガネやカメラのノレンズが見る間に曇ってしまう。

外気温は36度もあり、梅雨空の東京からくると、久しぶりの太陽に目がくらむ。

 

そのまま、桃園にある板金工場を訪ねたが、台湾の勢いを感じさせる工場だった。

董事長には2人の息子がおり、長男は中国・上海工場の責任者として上海に滞在。

本社工場は次男が総経理として、董事長の片腕となっていた。

 

仕事は鉄道車両部材から食品機械、工作機械のカバーなど様々。

鉄道車両は台湾初の民営車両メーカーで、住友商事や日本車両も資本参加する台湾車両が、台北市の地下鉄(MRT)から受注した地下鉄車両の運転台の筐体製作を受注している。

ショールームに製品が展示されているが、川崎重工業が設計したという運転台は、デザインも優れており、安全走行ができるよう、各種IT機器のモニター組込ができる筐体構造となっていた。

 

その他にも衛生管理の進んだ食品機械や自社で設計、デザイン・製作した工具箱など、設計力からモノづくり力を駆使する、積極的な営業姿勢が見受けられる。4階建工場の4階部には、社員の福利厚生施設としてバスケットコート、シャワールーム、飲食ができるサロンも設置されていた。

 

ところで、最近の台湾経済はピークに比べると台湾ドルが円に対して4割以上も高くなった影響で、工作機械業界などでは日本製品との厳しい競争にさらされている。

一部の大手工作機械メーカーの中には、減産を余儀なくされる企業も現れ、全体的には厳しい経営環境にさらされている。

 

しかし、半導体・FPD業界をはじめ、工業用コンピュータ(IPC)業界などのIT関連業界は好調である。

好調なIT産業は増産対応のため、台南・新竹など台湾IT産業の集積地での工場建設をさかんに進められている。

さらには旺盛な個人消費を背景に、ショッピングモールや高層ビル・マンションの建設ラッシュとなっており、建築関連も好調、業種間での明暗が表れている。

 

板金業界でも、工作機械産業が集積する台中地区では、工作機械カバー関係の仕事を受注する板金工場の業績が低迷している。

また、円安の影響でそれまで台湾で資材調達を行ってきた日系企業が、調達先を日本国内へ回帰させる動きが目立っており、日系企業から板金を受注していた板金工場の仕事量が急激に減少している。

そのため、台湾の板金業界では円安にも対応できるコスト競争力強化が大きな課題となっている。

 

そのために、大型の自動化投資を行って、コスト体質の強化を図る傾向も顕著になってきた。

また、中国へ工場進出した企業では、中国の人件費高騰、電気代をはじめとしたエネルギーコスト上昇の影響で、生産コストは台湾生産と遜色がなくなったとして、台湾へ製造回帰する企業が増えている。

 

もともと台湾の総人口は2,000万人強であり、生産人口も限られているため、どの工場でも外国人研修生の割合が2割前後となっている。

それだけに単純労働を自動化・機械化するという考え方は自然。

それだけに工場生産にICTを活用して自動化することには積極的である。

 

大半の工場には、図面を検証するため、PDF化された図面が見られるタブレット端末、コンピュータ端末が工場内に設置されている。

また一部では生産情報を共有するため、大型ディスプレイを工場内に設置、すべての社員がモノづくりプロセスを共有できるようにしている企業もある。

少なくともICT技術をモノづくりに活用するという視点では、日本以上に進んでいる部分もある。

 

政府に頼ることもせず、自分の城は自分で守る――という考え方も根強い。

それだけに、めまぐるしく変化する経営環境への変化対応力とセンスは抜群だ。

改めて台湾板金業界の変化対応力の強さに感嘆するとともに、変化を受け入れ、挑戦する板金工場の経営者のアグレッシブな姿勢に感銘した。

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