日本の社会インフラの総資産は800兆円/内需型の板金需要の創出を考える【メルマガ連携】

※この記事は、「Sheetmetal メールマガジン」No.11(2015年8月29日配信)からの転載になります。

 

日本の社会インフラの総資産がどのくらいあるかご存知ですか。

政府の資料によるとその総額は800兆円といわれています。

 

2013年に国会で「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靭化基本法」が成立。

自然災害が数多く発生するわが国にとって、強靭な国土づくりが欠かせないのと、戦後70年が経過して高度経済成長期につくられてきた新幹線、高速道路をはじめとした様々な社会インフラが、建設後50年を経て、大規模修繕が必要となっていることも法案成立の大きな要因となっています。

 

内閣府の試算では、社会インフラの耐用年数を50年とすると、2060年までに大規模修繕に必要な資金は400兆円が見込まれていますが、この数字の根拠となっているのが800兆円の総資産額です。

しかし、この数字はあくまでこれまでにつくられた社会インフラ資産の総額。

毎年建設される様々な社会インフラを考えると、総資産は毎年積み上がっていくことになります。

 

日本経済がこのまま順調に発展、税収が安定的に入ることを前提にすると、社会インフラの大規模修繕に必要な費用は毎年8兆円から、最大16兆円規模になる可能性もあるといわれています。

あくまで日本経済の安定成長が前提ですが、これからも国内の建設需要は膨大な額が見込まれます。

 

さらに、2020年の東京五輪開催に向けた施設や社会インフラの新たな建設も始まるので、これからも建設投資額が上向くことは十分、予測されます。

国土交通省が発表する建設工事出来高の伸びを見ても、2014年1-3月期の14.7%増から2015年4-6月の4.7%増まで連続して上昇しています。

 

また、建設工事の未消化工事高をみると、本年6月末で29兆円が未消化で残っています。

言うならば、この金額は大手ゼネコンが受注残として抱えている建設工事額であり、ここに社会インフラの修繕費用などが加算されると、未消化工事高が30兆円を超えるのは確実です。

建設資材の値上りや建設労働者の不足などで、受注しても着工できない物件が相当数あることは否めません。

 

さらに、建設工事受注動態統計を見ても、国内大手ゼネコン50社の受注額は、公共工事に限ってみると、2015年1-3月が△6.6%、4-6月が△39.6%と大幅な落ち込みとなっています。

発注したくとも入札不調となる物件も相当数あるようです。

 

こうした数字を見ると、日本には建設工事だけを見ても相当額の内需があるのは確実。

 建設工事と板金需要の相関関係までは十分検証できていませんが、金属加工の領域がその一端を占めていることもたしかです。

それだけに板金需要にどのように影響するのかをじっくり検証する必要があると思います。

 

7月から板金業界の受注動向にも変化が見えはじめています。

内需に関連した板金需要が、今後どのように顕在化してくるか、検討しなければならないと思います。

下期の景気は「下振れ」リスクが高まる

私は常日頃から社員や知り合いには、三つの目を持つように、と話している。

すなわち現場を見る「虫の目」、全体を鳥瞰する「鳥の目」、そして潮目を見る「魚の目」だ。

 

今、「魚の目」で見ると景気の変化を予感させる三つの懸念材料が生まれている。

いずれもアベノミクスに関連するものだ。

 

一つは株価。

第2次安倍政権が発足後、日銀による「異次元緩和」が発表されると、株価は徐々に上がり始め、ついには2万円の大台をつけるに至った。

この株高を支えていたのが運用資産137兆円を抱える、年金積立金管理運用独立行政法人(以下、GPIF)。

安倍政権は、消費増税実施による景気の落ち込みを避けるためには、日銀の追加金融緩和とともに、GPIFの日本株式組み入れ比率拡大で株価を上昇させる必要があるとして、2014年末で19.8%だった株式の運用比率を25%まで高めるべく、活発な日本株買いを進めた。

3月には地方公務員共済組合連合会など3つの共済年金も、GPIFと同水準まで日本株の保有比率を高めることを発表。

いわば官製の株価上昇対策――PKO発動による効果である。

 

しかし、GPIFなどの基金も7月末までに運用比率が25%の上限に近づいている。

こうした動向を見越して株価は、中国経済減速の影響もあるが、下振れしはじめている。

むろん上場企業の今期業績は前期から大きく改善しているので、株価の大きな落ち込みリスクは少ないと見られている。

しかし、中国・上海株式市場の動向により、不透明感は増している。

 

二つめは為替。

為替動向も1ドル124円台という円安水準まで推移したが、黒田日銀総裁が国会答弁で、これ以上の円安は望まないという主旨の発言を行い、今後は円安から徐々に円高へ振り子が戻る可能性も指摘され始めている。

 

そして三つめが、月ごとの公共投資の伸び率が前年同月比でマイナス成長となり、減少幅も徐々に拡大してきていることだ。

 

2011年の3.11東日本大震災からの復興需要のほか、2020年の東京五輪開催に向け、首都圏では国立競技場をはじめとした競技施設や交通インフラなどの建設投資が引き続き行われているが、全国で見ると地方を中心に公共投資の落ち込みが目立ち始めている。

景気回復の影響で税収が伸び、公共投資が増えることに期待する向きもあったが、プライマリーバランスを考えると、やむをえない。

アベノミクス3本の矢への期待感は薄くなり、秋口から年末に向かっての景気は、下振れするリスクが高まっている。

 

平成26年度補正予算で実施された各種補助金、助成金効果で上期の中小企業の設備投資はかなり盛り上がり、機械メーカー各社は半年分の受注をほぼ4カ月で達成する勢いのところが多い。

しかし、こうした設備の稼働が始まる下期には、数多くの最新設備が業界に入り、設備過剰感が生まれてくる可能性を指摘する声もある。

すでに半導体製造装置や工作機械業界では、下期は上期に比べると受注は低下するとの予測が大勢を占めており、設備力は増えたものの、それを賄う仕事量が減少する可能が指摘されている。

 

また、生産性が高く、自動化・無人化システムで導入された最新設備が稼働し始めると、受注競争が激しくなって、設備力の競争が生まれる可能性もある。

この結果として企業の収益性が悪化するとともに、最新設備を導入できた企業と、そうでない企業との企業力の差が生じて、優勝劣敗が鮮明になる可能性も高い。

 

いずれにしても下期の経済には厳しい見方をするとともに、設備力だけに頼るのではなく、他社との差別化につながる「コアコンピタンス」が自分の会社では何なのか、しっかりと見極めることが必要となっている。