ドイツ人研究者に日本文化・伝統芸能の魅力を教えてもらう【メルマガ連携】

※この記事は、「Sheetmetal メールマガジン」No.179(2022年2月25日配信)からの転載になります。

 

 

過日、取材でドイツ人の女性研究者とお会いした。

 

この方は2011年に交換留学生として来日し、生物物理学の分野で研究業績を上げ、留学先の東京大学で博士号を取得。その後、理化学研究所や産業技術総合研究所の研究員として活躍されている。

 

生物物理学は生命の根源を理解しようとする学問といわれている。生命らしさが現れる最も小さい単位は、生体高分子。生体高分子が自己組織化して超分子集合体ができ、超分子集合体の有機的な集まりによって細胞ができ、細胞の組織化によって器官や個体ができる。そして、生態系が生命の階層構造の最上位に位置している。

 

生物物理学の目的は、生命現象の物質科学的基礎を理解し、その階層をつなぐ原理原則を見いだすことによって生命現象を解き明かすことといわれている。そのため、研究者には革新的なアイデアや創意工夫が求められ、研究者の叡智が最大限に発揮できる学問といわれている。

 

この研究者は子どもの頃から生物が好きで、獣医を夢見たこともあったという。現在は脂質-タンパク質構造のハイスループット生産に向けたフェムト秒レーザプロセス開発の研究を行っている。

 

大学時代に2カ月間、日本でボランティア活動を行い、日本語をはじめとした日本文化に興味を持った。日本に留学したのは、東日本大震災による福島第一原発のメルトダウンで放射能汚染が心配されていた最中だった。ドイツ政府は、日本に滞在していたドイツ人に対して、原発に近い東京からの避難を勧告するなど、きびしい対応を行っていた。家族や友人からは訪日を反対されたというが、ご本人の決心は揺るがず、以来10年間、日本で研究を続けている。

 

日本の伝統芸能に関心を持ち、プライベートでも和太鼓をたしなんでいる。和太鼓を打つ写真も見せていただいたが、バチを持つ姿は凛々しく、太鼓に向かう目つきは真剣そのものだった。浅草をはじめとした下町を歩くことが好きで、日本情緒を愛してやまない。「新型コロナの感染拡大が収束したら、四国八十八カ所巡りもしたい」とおっしゃっていて、日本への永住も決めていた。都内から研究所のある「つくば」への通勤も楽しいと話していた。日本の漫画やアニメにも愛着があり、ドイツにいた頃には「セーラームーン」のコスプレにはまったこともあったという。

 

筆者はこれまでいろいろな研究者にお目にかかってきたが、これほど日本文化にほれ込んだ方にお目にかかったことはない。あらためて日本の文化を誇らしく思うとともに、思いの強さの大切さを感じた。