景気の好循環で力強さ増す日本経済

 

 

5月は各業界団体の定時総会が開催される時期で、私も関連する鉄道車両、建設機械、自動車部品などの工業会が、定時総会後に催す懇親会に出席させていただいた。

 

安倍内閣も政権発足後2年半を迎え、アベノミクス効果で景気も好循環に働き始めている。

そのため、各工業会ともに2014年度の業績、そして今年度の業績見込みも前年度横ばいか、若干の右肩上がりで推移すると見込んでいることから、参加されている会員企業のトップの顔にも笑顔が溢れ、会場の随所で歓談する会員同士の会話からも笑い声が絶えることがなかった。

 

鉄道車両工業会では、来賓として出席された国土交通省の藤田耕三鉄道局長が、今年3月に開業した北陸新幹線、来年3月に開業予定の北海道新幹線など新幹線の経済効果について言及した。

鉄道事業の重要性を語り、鉄道車両の業界はこれからも堅調に推移すると挨拶され、出席者からも大きな拍車がわき起こったことからも、元気が伝わってきた。

 

建設機械工業会では工業会発足25周年ということに加え、建機出荷金額が2兆円超えとなったこと、国土強靭化をオールジャパンで進めようとする政府方針に対応して建機の内需が堅調に推移、2020年の東京五輪開催までは内需は高原状態が続くという判断が大半の出席者の共通認識としてあった。

 

ただ、ピーク期の出荷数の1/3にまで激減した中国の建機市場の不安定さや、国際的な資源価格――特に石炭需要の低迷などを背景に、マイニング市場の不安定さなどを懸念する声もあった。

しかし、総じて先行きには、出席者全員が明るい見通しを持っておられたようだ。

 

その中で、出席者が期待を寄せていたのが、来賓として出席された経済産業省製造産業局の黒田篤郎局長が挨拶で述べられた、建機工業会も参加して5月15に内に発足した「ロボット革命イニシアティブ協議会」の動向である。

 

建設・土木業界の人手不足は深刻で、建設・土木工事の省人化、合理化、自動化の推進、原発事故のように人が立ち入れない危険なエリアで活動できる、遠隔操作で無人で作業ができる建設機械の開発と、それによる新たな需要創造に期待が集まっていた。

 

ロボット革命イニシアティブ協議会には主要な業界団体やメーカーなど226社・団体・個人が参加。

政府主導で設立総会が開催され、懇親会には安倍首相も駆けつけ「新たなロボット大国のカギを握るのはロボットを大規模工場から経済社会の隅々にまで解き放つことだ」と挨拶。

ユーザーを含む“オールジャパン”体制で、世界一のロボット先進国を目指す。

それだけに建機業界もこの動向きに期待している。

 

日本経済は力強く回復してきており、株価や為替の動向もこれを後押ししており、これからの力強さにも期待したい。

道後温泉で出会った明治人の息吹

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連休明けに四国・松山市のお客さまを訪問した夜、道後温泉の老舗料理旅館「うめ乃や」で夕食を堪能することができました。

 

以前、取材で訪れた四国の板金業界の動向を誌面に紹介した折に、司馬遼太郎の『坂の上の雲』を引き合いに出して、正岡子規や日露戦争の立役者だった秋山好古、真之兄弟のことに触れたことを記憶していた知り合いが「二人の書がある」ということで、ここへ招待してくださいました。

 

「うめ乃や」は正岡子規の弟子、河東碧梧桐らに愛されてきた俳趣の宿とのことで、温泉街の街中とは思えない静寂な空間が私たちをもてなしてくれました。

宿のご主人のこだわりで、アメリカを代表する家具デザイナー、ジョージ・ナカシマのオーダーメイド家具がセッティングされた和室のダイニングで供された食事は、一品一品が丁寧に地元の四季豊かな旬材を用いて見事に彩が加えられた会席料理で、締めは鯛めし。美味しくいただくことができました。

 

秋山好古、真之兄弟の書は、ダイニングルームに3点掲げられていました。

中でも私は秋山真之の「主一無適」と書かれた書が印象に残りました。

事に当たってはその一事に精神を集中統一して,他に散らさないこと、という意味の言葉だということで、朱子学の古くからの教えだそうです。

かの吉田松陰も<一日一言主一(しゅいつ)無適(むてき)は心学の常套(じょうと)>と書いています。

 

日本海海戦で「天祐」もあって、バルチック艦隊を打ち破った真之は、まさに「主一無適」でバルチック艦隊との戦い方を考えていたのでしょう。

ところで、真之は戦争で多くの人命が失われたことを後悔していたともいわれます。

秋山真之の戦略には、孫子の「戦わずして人の兵を屈するは善の善たるもの」が、根本思想としてあり、軍は戦うためのものでなく、戦争抑止力としての価値があると考えていたといわれています。

軍人でありながら不戦論者でもあったようで、平和の大切さを十分に心得ていた人物であったと思います。

 

享年49歳で亡くなる際には、枕元に集まった海軍軍人に「アメリカとの戦いは避けるように」と語っていたともいわれています。

第2次大戦に最後まで海軍は反対だったという話がありますが、秋山真之が最期に残した言葉が、その後の日本海軍の戒めになっていたのかもしれません。

 

真之は日露戦争終結後、国民の多くが大国ロシアに勝利したことを喜ぶ風潮に対しても、「古人曰く、勝って兜の緒を締めよ」と述べています。

今の日本では安全保障法制に関する国会論議が話題となっていますが、改めて秋山真之の「戦わずして勝つ」という戦略を噛みしめる必要があるように思いました。

 

古きよき趣に新しきを添えた優しきもてなしに感謝しながら、明治の先人たちの生き方、日本をこよなく愛した息吹にも触れることができる素晴らしい時を過ごすことができました。

日中製造業界の潮目の変化―「中国製造2025」を踏まえて【メルマガ連携】

 

2年ぶりに中国・北京で開催された「中国国際工作機械展覧会」(CIMT 2015)に出かけてきた。

 

すでに報道されているように、世界28カ国から1,554社の出展者が、北京国際展覧センターの8ホールに最新の加工機械やシステム、ロボットをはじめとした自動化システム、CAD/CAMなどを出展した。

6日間の会期中に会場を訪れた来場者総数は31万5,484人と前回を11.06%も上回った。

 

中国は、2002年から連続して世界一の工作機械の消費国であるとともに、2009年からは5年連続で世界一の生産大国になっている。

これは1978年の改革開放政策が始まって以来、中国に進出した外国資本が安い労働力を使って中国を「世界の工場」にしてきたことが大きな要因となっている。

 

しかし、市場経済の発展によって中国の労働コストは年を追うごとに高騰し、中国経済の発展によって為替水準が元高で推移している。

中国で製造するメリットは急速に薄れ、元高の影響もあって海外からの中国への投資が減少するようになった。

その結果、中国の経済成長は減速し、今年のGDP成長率も7%の予測に留まっている。

 

こうした中国経済の変化に対応して、習近平政権は昨年末にこれらの中国経済の目指すべき方向を「新常態」(New Normal)と表現し、以下の方針を発表した。

 

  1. 高速成長から中高速成長への転換
  2. 成長率重視型の粗放型成長モデルから成長の質・効率重視の集約型成長モデルへの転換
  3. 供給能力拡大重視型経済構造から供給能力適正化重視型経済構造への転換
  4. 伝統的経済発展推進力から新型経済発展推進力への転換

 しかし、いずれの内容も抽象的で、具体的な政策は今後を待たなければならない。

 

そんな中で、今回のCIMTで注目されたのが「新常態・新発展」というスローガンと、開催1カ月前の全人代で公表された「中国製造2025」(Made in China 2025)という10カ年計画だった。

 

開催日直前の4月19日には、中国机床工具工業会主催で「2015机床製造業CEO国際会議」が開催され、国内外の主要企業のCEOによる講演会やパネルディスカッションが行われた。

 

会議が行われた会場正面の演壇には「新常態・新発展」というスローガンが大きく掲げられ、中国を代表して講演した済南二机床集団有限公司の張董事長は45分の講演中、たびたびこうしたスローガンと「中国製造2025」で述べられている「量から質への転換」「生産大国から製造強国へ」という言葉を口にした。

 

また、展示会場でお目にかかった出展メーカーの首脳も異口同音に、このことを語っていた。

そして海外から技術やコアユニットを購入し、組み立て製造した機械を自社製品として販売する姿勢を改め、自主技術を産官学連携で開発し、2025年までには日米欧のコンペチターに負けない高機能・高品質な製品を開発すると語っていた。

 

新興国から先進国へ成長するための生みの苦しみといえばそれまでだが、中国の製造業が大きく変わろうとしているということを強く感じた。

それとともに、環境、工場内の安全衛生管理、品質管理、さらには知財に対する考え方を含め、価値観を大きく変えようとする強い意志を感じた。

 

日中関係は戦後70年を迎え、大きな節目を迎えている。

製造業界では今後、日中のパートナーシップが問われていくような気がする。

大きな潮目の変化を感じた。