特集

継続は力なり ― 事業承継で成長する変化対応力

2030年までの成長戦略を策定して事業承継

医療機器・電子部品実装装置など“旬”の仕事が80%

棚長 株式会社

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画像:2030年までの成長戦略を策定して事業承継①ベンディングロボットシステムEG-6013AR+EGROBOTは、手のひらの半分ほどのサイズの7曲げ部品を多数加工している/②アンローダーコンベヤーにところ狭しと並べられた曲げ加工後の製品

鉄工業から板金加工に事業変換

画像:2030年までの成長戦略を策定して事業承継榊原逸夫社長と榊原聡子常務

棚長㈱は1961年に榊原長七氏が鉄工業を行う会社として創業した。1977年に長男の榊原逸夫氏(現社長)と次男の榊原鎮雄氏(現専務)が脱サラしたことを機に板金加工業に事業転換。徐々に最新の設備に切り替えを行い、精密板金加工にシフトした。

1987年に当時専務の榊原逸夫氏がみずからMS-DOSベースのRDB受発注システムを開発、1994年に2代目社長に就任し、IBM製のPCLを早期に導入するなど社内のIT化・ネットワーク化も進めた。2000年に長女の榊原聡子(あきこ)氏(現常務)が入社してからはMicrosoft Accessベースの独自の生産管理システムを構築するなど、デジタル技術を最大限に活用してきた。

社長就任から30年目をむかえる2024年に榊原常務に社長を譲るべく、事業承継の準備も怠らない。

医療機器・電子部品実装装置の板金加工

同社の売上の80%は主力得意先2社で占められている。1社は眼科分野の検査機器・レーザ機器・診断機器・手術機器などを手がける医療機器メーカーで、特にレーザ機器分野では世界的に高いシェアを保持している。もう1社はプリント基板に電子部品を装着する電子部品実装装置、画像認識機能を採用した検査機、印刷機の世界市場で高いシェアを持つ電子部品実装装置の総合メーカーだ。

いずれの装置にもステンレス・アルミニウムが多く使われており、特に電子部品実装装置のヘッド部には微細なアルミニウム製部品が使われている。同社は長年培ってきた加工技術を生かし、アルミニウム・板厚0.5㎜をパンチングマシン、ベンディングマシンで加工した後、表面処理、組み付けまでのキズレス加工に対応し、板厚0.5㎜以下のアルミニウムやステンレス微細溶接をYAGレーザやファイバーレーザ溶接ロボットで行っている。

また、ランナーステンレスをR形状にして、ファイバーレーザ溶接で両端にフランジを接合するなど、その精密板金加工技術に対する評価は高く、これまでにたびたび、得意先から「ベストサプライヤー賞」を受賞している。

  • 画像:2030年までの成長戦略を策定して事業承継パンチ・レーザ複合マシンLC-2012C1NT+AS-2512C1
  • 画像:2030年までの成長戦略を策定して事業承継ベンディングロボットで曲げ加工された部品は、YAGレーザ溶接ロボットによって溶接長さ2㎜という微細溶接が行われる

コロナ禍と米中摩擦の影響で環境が激変

順調だった受注環境に変化の兆しが出てきたのは2019年5月。トランプ前米国大統領が米国企業による非米国企業の通信機器使用を禁止する大統領令に署名、これによって米国商務省は政府の許可なしに米国製品を輸出できない規制リストに華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)などの中国企業を追加、米中摩擦がきびしさを増していった時期にあたる。

2020年6月に米国連邦通信委員会(FCC)は、ファーウェイとZTEの2社を米国の通信ネットワークおよび5Gの未来に対する「安全保障上の脅威」と認定、両社の機器やサービスの購入・利用を禁止した。こうした事態を予測してファーウェイは2019年央から、製品製造に必要な機器や装置の事前調達を強化。電子部品実装装置を大量に発注し、そのため一時的にファーウェイ特需が生まれた。

しかし、それもつかの間、日本からファーウェイやZTE向けに輸出される機器や装置に米国製部品を使用している場合には、米国商務省への事前承認が必要となり、これを契機に中国向けの輸出商談が全面ストップ。同社への発注も大幅に減った。

さらに好調だった医療機器も止まった。新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染防止対策として世界各国で行われたロックダウンの影響で輸出が滞り、製品が倉庫に在庫されたままになり、結果、流通在庫の増大で得意先メーカーは工場生産を停止する事態に追い込まれた。これによって2020年8月以降は同社も大幅な減産を余儀なくされ、雇用調整助成金を活用した一時帰休や交代勤務を実施、生産調整を行った。

榊原社長は「医療機器はコロナ禍の影響は小さいと思っていましたが、ロックダウンで物流が止まったことで在庫が増え、結果として生産調整が必要な事態に追い込まれるなど想定もしていませんでした」。

「また、米中摩擦が当社の仕事にここまで影響するとも想定しておらず、8~10月期の仕事量は40%ちかく落ち込みました。物流が徐々に改善されてきたことで、最近では少しずつ生産も戻ってきていますが、欧州の新型コロナによる混乱をとても心配しています。世界的に半導体が不足している中、電子部品実装装置の生産量も回復してきています」という。

画像:2030年までの成長戦略を策定して事業承継左:アルミニウムのTIG溶接を行うエリアはパーテーションで囲い、粉塵防止を行っている/右:溶接された電子部品実装装置に使われるアルミニウム製の部品

会社情報

会社名
棚長 株式会社
代表取締役
榊原 逸夫
所在地
愛知県安城市東端町用地167
電話
0566-92-2411
設立
1981年(1961年創業)
従業員数
50名
主要業種
医療機器・歯科医療機器部品・電子部品実装装置・半導体製造装置の精密板金加工、精密金属加工
URL
http://www.tanacho.jp/

つづきは本誌2021年3月号でご購読下さい。

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