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ポストコロナと事業承継

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東京商工リサーチによると2022年(1-12月)の「休廃業・解散」企業(以下、休廃業企業)は、全国で4万9,625件(前年比11.8%増)で2年ぶりに増加した。2020年の4万9,698件にほぼ並ぶ、過去2番目の高水準となった。2022年は企業倒産も3年ぶりに増加に転じた。

コロナ禍での政府や自治体、金融機関の手厚い資金繰り支援により、2021年は休廃業・解散、倒産はそろって前年を大幅に下まわった。持続化給付金や雇用調整助成金など「給付型」支援は一時的な資金繰り改善だけでなく、コロナ禍で事業環境が激変するなかで債務に類しないキャッシュインとして資金繰り緩和に大きな効果があったようだ。ただ、こうした支援は事業継続について判断の先送りにつながった。

「実質無利子・無担保融資(ゼロ・ゼロ融資)」を含むコロナ関連支援策が縮小していく中で、多くの「ゾンビ企業」が事業継続の判断をせまられ、休廃業や倒産件数が増えている。

1月の全国企業倒産件数は前年同月比26%増の570件で、増加率は2カ月連続で20%を超えた。
 休廃業企業の代表者の平均年齢は71.6歳(前年71.0歳)、中央値は73歳(同72歳)だった。70代以上は事業継承への時間的制約に加え、後継者難と業績低迷などで事業譲渡先が見つからないケースも多い。

板金業界でも、事業承継がネックで休廃業する企業が増えている。M&Aによって第三者に事業を譲渡する企業も増えている。取材で訪問すると、2社に1社の割合で金融機関などからM&Aを勧められたという話を耳にする。M&Aの相手先は同業者の場合もあるが、最近は金属加工業全般にわたっているという。

板金企業もワンストップ加工を実現するため、抜き・曲げ・溶接の板金工程に加え、機械加工、後工程の塗装や組立配線、上流の設計へと事業領域を広げたいと考える経営者が増えている。手っ取り早く、そうした業界で事業譲渡を考えている企業をM&Aでグループに加えるケースも多い。二極化が進んでいるだけに、「勝ち組」によるM&Aは今後も増えると考えられる。

課題もある。M&A先(譲渡企業)の面倒を見ることができる人材の確保と育成だ。また、M&Aを検討する側の企業自身が事業承継を円滑にできるか、という問題もある。

往々にしてM&Aを考える企業の経営者はアグレッシブだ。身内に後継者候補がいれば問題は生じないが、後継者がいない場合、いたとしても未成年の場合は、この先も積極経営を継続できるかわからない。

そんな中小企業のお助けマンとして最近注目を集めているのが「事業承継ファンド」だ。「投資ファンド」は花盛りで、行政・銀行・証券会社・大手企業など出身母体は異なるものの数は多い。しかし、「事業承継ファンド」はまだ数が少なく、活動実態も見えていない。

ファンドの支援を受けている企業に話を聞くと、出資額は多いものの経営権を盾に口出しすることもなく、事業承継のソフトランディングを目指すとともに、後継者育成をはじめとした人材育成のためにいろいろなツールの紹介や助言をしてくれるという。そして、事業のアドバイスから、M&Aによる事業拡大にも積極的に関わってくれるという。それがきっかけで、この企業はM&Aを含めた中期経営計画で売上倍増を目標に掲げている。

この企業の経営者は、後継者難を「渡りに船」と捉え、ファンドの資金・人材・情報を活用して事業の発展と人材育成を実現しようとしていた。私利私欲ではなく「利他の経営」で事業を発展させてきた経営者の人格や器の大きさも影響しているように感じられる。事業承継にもいろいろな方法があるようだ。

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