技能検定制度を生かしたエキスパート人材育成の取り組み
ベトナム人スタッフも技能検定にチャレンジできる組織づくり
ダイバーシティ経営とグローバル化でさらなる成長を目指す
田中産業 株式会社
ベトナム人スタッフが約半数を占める
田中産業㈱は「ダイバーシティ経営」と「グローバル化」、そして設計から精密板金加工、粉体塗装、組立までの「ワンストップ対応」を強みに成長を続けている。現在の売上構成は、工作機械関連が35%、業務用空調・冷暖房機器関連が15%、スチール家具関連が30%、医療機器が15%、その他5%となっている。
同社の転機は2008年。ベトナム人の「技能実習生」を受け入れ始めたことがきっかけとなり、ダイバーシティ経営とグローバル化を推進していった。技能実習生が3年で帰国してしまうことへの懸念から、2010年からはベトナム人の「高度人材」(エンジニア)を採用するようになった。2019年からは新たに始まった「特定技能」の制度も活用し、今では全従業員65名のうち45%に相当する29名がベトナム人スタッフとなっている。
2011年にはベトナムに現地法人Tanaka Vietnam Co.,Ltd.を設立し、現地で塗装・梱包作業に対応するようになった。2012年にはベトナム・ハノイ市郊外のビンスエン工業団地に工場進出、2013年には新工場を開設し、板金加工から塗装・梱包までの一貫生産体制を構築した。これは得意先の要請があったわけではなく、同社単独での生産移管であり、中小製造業としては異例の取り組みだった。現在は、現地の日系メーカーから受注する仕事や、日本国内向けの製品を加工して日本の本社工場へ出荷する仕事に対応している。
ベトナム工場には、かつて同社が受け入れた技能実習生のOBも勤務しており、現地の協力会社に日本で働きたい人材を紹介してもらうこともあるという。
ベトナム人スタッフ29名の内訳は、技能実習生4名、特定技能7名、高度人材18名。主に従事している工程別にみるとプログラム3名、ブランク2名、曲げ5名、スポット溶接3名、溶接1名、塗装7名、組立8名と、全工程にまんべんなく配置されている。中でもスキルを要する曲げ工程には高度人材を重点的に配置し、現在はベトナム人5名に対して日本人3名という構成になっている。
人事評価制度を刷新し、資格取得を促進
外国人スタッフの割合が高まると、技術・技能の向上と蓄積がよりいっそう深刻な課題となる。この課題に対して、2015年に3代目社長に就任した田中公典社長は、人事評価制度を刷新し、「技能検定(工場板金技能士)」をはじめとする資格取得を促進することで対応していった。
田中社長が社長就任後に刷新した人事評価制度は、「全役職者が全社員を評価する」というもので、9名の役職者が約1カ月かけて全社員65名を評価する。各役職者は、自分の部下だけでなく「全社員」を評価する。「全社員」の中には役職者も含まれ、役職者はお互いに評価し合うかたちになる。
9名の役職者は40代が中心で、塗装・組立を担当する「モジュール事業部」と板金加工を担当する「シートメタル事業部」それぞれの事業部長(計2名)と、「生産管理」「レーザー」「曲げ」「溶接」「塗装」「検査」「組立」の各課長(計7名)。「トップダウン型経営では企業の成長には限界がある。社長のやり方がまちがっていることはたくさんあるし、社員にも成長してもらう必要がある」(田中社長)という考えのもと、各役職者には相応の裁量が与えられ、それぞれの責任の範囲で機動的な意思決定が行える。
田中社長は「全役職者」が行った評価の結果を集計し、それをもとに個人面談を行う。田中社長が評価の過程で介入したり、後から手を加えたりすることはない。
基本的には、約30の評価項目で高得点を取ったり、資格を取得したりすると昇給につながる。資格の場合は、それとは別に資格手当がつく。昇給や手当の対象となる資格は、技能検定(工場板金技能士)、溶接技能者、QC検定、英検(実用英語技能検定)、マイクロソフトオフィススペシャリスト(MOS)などで、外国人スタッフの場合は日本語検定も対象になっている。
受検手数料など、資格の取得にかかる費用は全額会社が負担する。2019年度から、技能検定(工場板金技能士)については天田財団の「技能検定 工場板金 受検手数料助成」事業を利用している。
会社情報
- 会社名
- 田中産業 株式会社
- 代表取締役
- 田中 公典
- 所在地
- 静岡県三島市長伏155-33
- 電話
- 055-977-1836/dd>
- 設立
- 1956年
- 従業員数
- 65名
- 主要事業
- 業務用空調・冷暖房機器、ロッカー・スチール家具、工作機械の板金製品、パイプ加工、粉体焼付塗装、アセンブリー、海外調達
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