事業承継を機に発展する岡山・島根の板金企業
「地域に欠かせない板金工場」としてオーダーメイドの特注品に特化
元看護師の3代目経営者がビジョナリー経営を展開
有限会社 田中製作所
「地域に欠かせない板金工場であり続ける」 ― 地域に根差した板金工房を開設
岡山県倉敷市にある㈲田中製作所の3代目経営者、門田(もんた)悦子社長は、経営幹部に就任した2012年頃から経営改革を推進してきた。ビジョナリー経営(理念経営)を展開し、全社員を巻き込んで「経営指針書」や「10年ビジョン」を作成。明確な経営戦略に基づいて、同社の強みであるオーダーメイドの特注品にリソースを集中し、「地域に欠かせない板金工場」として存在感を高めている。
2022年11月にはハンディファイバーレーザ溶接機FLW-1500MTを導入し、専用の溶接ブースを新設。精度・品質が要求される半導体製造装置向けの精密板金加工部品や、デザイン・アートなど“一点物”の作品への対応力を高めた。
それと並行して旧事務所棟のリニューアルを進め、2023年2月には地域に根差した板金工房「瀬戸内板金SQUARE」を開設。「アイデアをカタチに」「欲しいをつくる工房」をコンセプトに、地域の共創施設、オープンイノベーション施設としての活用を目指す。工房には製品サンプルやCADを設置し、商談スペースとして活用できるほか、ファイバーレーザ溶接作業の見学や溶接体験もできる。
門田社長は「当社は『田中とわかるものづくり』を経営理念に、『ものづくり』『ことづくり』『ひとづくり』のシナジーによって『地域に必要とされる板金工場であり続ける』と宣言しました。板金工房はそのための仕掛けのひとつです。また、地域の企業ネットワークを生かすことで、今年の当社のテーマでもある『多様性』のあるものづくりを実現できます。当社では加工できない領域の設備・ノウハウを持った地域の同業者や異業種の企業と連携し、お客さまのご要望により高いレベルで応えていきたい」と語っている。
工場拡張 ― 「一品一様」の強みを生かしつつ小規模量産にも対応
「地域」へのアプローチと並行して、自社の生産能力・生産性を高めるための設備投資にも力を入れてきた。
2019年には工場・事務所を増築し、工場面積を1.5倍に拡張。自動金型交換装置付きベンディングマシンHG-1003ATCを増設し、ボトルネックになっていた曲げ工程の処理能力を高めた。難易度が高い曲げ加工の技能伝承と多能工化が進んだことで、時間外労働が減っただけでなく、従業員が休暇を取りやすくなるなど、労働環境の改善にもつながった。
2023年2月には隣接地の土地・工場建屋(敷地1,130㎡・建坪317㎡)を取得し、敷地面積は1.5倍、建築面積は1.3倍に広がった。現在は倉庫として利用しているが、2024年には「レイアウト改善計画チーム」を発足させる予定。2026年までにファイバーレーザ複合マシンを導入し、2030年までに従業員を5名増員して20名体制にする構想で、それを踏まえて工場レイアウトの抜本的な見直しと動線の最適化を進めていく。
これにより、同社が強みを発揮できる「一品一様」の業態を維持しながら、試作案件から展開する小規模量産のニーズにも応えられる体制を築く。
前期(2023年9月期)の売上構成は、工作機械部品が37%、分電盤・配電盤筐体が36%、半導体製造装置向けなどの精密板金加工部品が16%、農業機械の試作部品が8%、デザイン板金が3%となっている。得意先口座数は209社で、前期の取引実績は97社。ここには新規得意先18社が含まれ、毎年20社前後のペースで得意先が増えている。
受注変動が少なく安定している医療機器や食品機械、成長産業として期待される半導体製造装置を「目指すべき分野」として視野に入れており、「精密板金加工部品」への対応力を強化。受注金額も増加傾向にある。
加工材料は鉄系材料が70%。以前は鉄系材料が80%を占めていたが、半導体製造装置関連やアート・デザイン系の案件が増えてきたことでステンレスの割合が徐々に高まっている。
会社情報
- 会社名
- 有限会社 田中製作所
- 代表取締役
- 門田 悦子
- 所在地
- 岡山県倉敷市栗坂467-19
- 電話
- 086-463-4150
- 設立
- 1981年(1972年創業)
- 従業員数
- 15名
- 主要製品
- 分電盤・配電盤など各種自動制御盤の筐体板金製品/各種機械カバー・機械部品、試作品/レーザ加工品/デザイン製品
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