Interview

外国人材が日本で働くことの魅力を発信する

多様な人材・働き方ができるダイバーシティの環境づくりが必要

神奈川大学 経営学部 国際経営学科 教授 湯川 恵子 氏

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湯川恵子氏湯川恵子教授

厚生労働省が8月末に発表した人口動態統計によると、2023年1~6月の出生数は前年同期比3.6%減の37万1,052人(外国人を含む速報値)と、2年連続の40万人割れで2000年以降最少となった。死亡数は2.6%増の79万7,716人で、出生数から死亡数を引いた自然増減は△42万6,664人。減少幅は前年同期から3万4,393人拡大した。

国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が4月に公表した将来推計人口では、2023年の出生数(中位推計)は76万2,000人(外国人含む)と予測され、2023年上期の減少率が下期も継続すれば通年で約77万人となり、ほぼ推計どおりになる。

また、社人研が発表している2023年の低位推計では2050年の出生数は48万9,000人となっている。総人口に占める65歳以上の高齢者の割合を示す高齢化率は38.4%になる。

深刻なのが、生産年齢人口の減少だ。2022年1月時点で7,496万人だった生産年齢人口(総務省調査)は、社人研の中位推計によると2050年に5,540万と1/4以上減少する。

こうした中で政府は「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」で、外国人材を適正に受け入れる方策を検討。その中で、約30年にわたり外国人材の受け入れ経路となってきた「技能実習制度を見直す」としている。生産年齢人口が急激に減少する日本の労働市場に外国人材を今後どのようにして確保し育成するか、抜本的な見直しが求められている。

長年、中小企業を中心に外国人材の活用の実態を調査し、外国人材の日本企業への適応促進に関する研究に取り組んでいる神奈川大学経営学部国際経営学科の湯川恵子教授に話を聞いた。

画像:外国人材が日本で働くことの魅力を発信する出生数・婚姻数の推移

「どうしたら生き生きと仕事ができるか」を考える

― 湯川教授は2011年頃からものづくり産業における技能伝承システムを研究し、工作機械産業における熟練技能の技術への転換による人材育成システムの提案、地域成長戦略のための新しい生産ネットワーク構造のデザインなどの研究、熟練技能を必要とする専門的人材育成を組織的に行うための制度設計に関する研究に取り組んできました。これまでの研究の経緯をご紹介ください。

湯川恵子教授(以下、姓のみ) “経営”の語源は“やりくりすること”です。組織にたずさわる人々が、どうしたら生き生きと仕事ができるかを考え、“やりくり”していくことが“経営”です。経営学は「人間の学問」などといわれるように、人によって成果をあげるための学問だと思います。ですので、会社の利益を考えると同時に、数字に表れてこない仕事の満足度ややる気などについても扱います。

中でも私が研究テーマにしているのは、「経営組織の持続可能性」についてです。会社が長生きできるか否かは、そこで働く人々が生き生きと仕事ができるか否かにかかっています。大事なのはチームワークとリーダーシップ。一人では不可能な仕事も共同作業によって可能になります。そんな中で日本の強みであるものづくり産業に着目し、「熟練技能の伝承」という側面から経営組織の持続可能性を考えました。

たまたま日本工作機械工業会のご協力をいただくことができ、工作機械産業を調査する機会に恵まれ、効率的かつ加速的に高度熟練技能を備えた人材育成のためのプログラム構築に着手しました。調査ではマシニングセンタの加工作業に重みづけを行い、どのような時期にどのような作業をどのような方法で教育していくと人材育成が加速化されるか、熟練技能の可視化、すなわち技術への置換可能性によって明らかにしようとしました。

結果、「OJTでの教育が効率的な作業群」「Off-JTでの教育が可能な作業群」「熟練技能のまま伝承する高度熟練技能群」に分類し、人材育成加速化のカギを握るOff-JTの有効活用の指針を提示するとともに「熟練技能として存続する作業」、すなわち日本の競争優位性としての高度熟練技能の存在を明確にしました。

他方で、熟練技能を機械化、文書化、データベース化などによってモデル化することで技能伝承の問題に対処しようとする試みについて、機械に置き換えることで他国の模倣を招くというデメリットを指摘した評論が必ずしも正しくないことも明らかにしました。

「ゆるやかな標準化」を模索

― 外国人材の活用についても提言されています。

湯川 それらの経験から、ものづくり企業が地方・地域に立地しながらグローバルな生産環境の中で、製品の付加価値創出の意味で地理的距離のへだたりを超越できるような新しい生産ネットワーク構造のデザインを文理融合型の研究手法により試みました。

先進事例分析をベースに成功要因や駆動因子の関係性をモデル化し、経営資源マップを構築。特に「ヒト」に関する資源要素を構造的にとらえることで、「ヒト」の育成・教育についての有効な指針を見つけ、その後は専門的人材育成を組織横断的に行うことができるのか、できるのであればどのようにアプローチすべきか、という視点でグローバル時代のものづくり技能人材育成における「ゆるやかな標準化」を模索しました。

専門性の高い現場では企業間の壁が高く標準化には大変な困難があります。ドイツはIndustry 4.0を掲げ、国をあげて世界標準化に取り組んでいますが、人材育成分野でのゆるやかな標準化を模索することは、日本の独自性を発揮できる分野になると考えました。日本固有の「生産文化」を意識した人材育成のモデルを国際比較分析することで、日本の生産文化が競争優位性の源泉になりうると考えました。

そうした経緯により、生産年齢人口の減少という現実の中では多様な人材が求められていると考え、外国人材の積極的な活用をどのように進めていけば良いのか、それをサポートする観点から、日本企業での高度外国人材の活用促進を研究するようになりました。

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プロフィール

湯川恵子(ゆかわ・けいこ)
神奈川大学経営学部国際経営学科 教授。神奈川大学大学院経営学研究科 博士課程修了後、北海道工業大学(現・北海道科学大学)未来デザイン学部人間社会学科 准教授、神奈川大学経営学部国際経営学科 准教授を経て2022年に現職。

つづきは本誌2023年10月号でご購読下さい。

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