Interview

自動車工場向け“電動からくり装置”を新たに展開

EVシフトに危機感 ― 強みをさらに強くして新しい価値を創出する

株式会社 産技 代表取締役 磯谷 充 氏

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画像:自動車工場向け“電動からくり装置”を新たに展開磯谷充氏

自動車工場向け生産付帯設備などの製造・据付を手がける㈱産技は、2020年夏以降、低コストの中国製小型協働ロボットや小型シングルボードコンピュータ「RaspberryPi(ラズベリー・パイ)」、小型モーター、小型センサーなどを駆使した“電動からくり装置”を新たに展開している。

2020年6月に電気・電子制御のノウハウがまったくない状態でプロジェクトを立ち上げ、最初の試作機ができるまでわずか1カ月。2020年10月から顧客への納品が始まり、今年3月までの6カ月間で10台を製作した。

同社は50年にわたり、大手自動車メーカーの主力工場向けに生産付帯設備(踏み台・安全柵・作業台・運搬台車・組付検査治具・部品シュート・架台などの製缶板金製品)および各種搬送設備を製作してきた。

現場を知り尽くした生産付帯設備のプロ集団であり、顧客から「こんなものがほしい」と聞けば、仕様図面を支給されなくても最適な付帯設備を迅速に、かつ低コストで製作する。構想・設計から加工、組立、塗装、据付工事、改造までワンストップで対応できるのも強みだ。2015年頃からは製缶板金製品だけでなく、機械的な動きがある“からくり装置”も手がけるようになった。

“電動からくり装置”のプロジェクトは、コロナ禍で仕事量が減少し、EVシフトが叫ばれる中、強みをさらに強くして新しい価値を創出し、既存市場の深耕と新規市場の開拓を目指して立ち上げられた。

プロジェクトの経緯について、磯谷充社長と成田恵治顧問に話を聞いた。

EVシフトへの危機感が背景

― 小型協働ロボットや小型コンピュータ「Raspberry Pi」を使った“電動からくり装置”を開発するようになった背景を教えてください。

磯谷充社長(以下、姓のみ) 現状に対する強い危機感がありました。

当社が手がける製品は、ほぼすべてが自動車産業向け。主要事業である生産付帯設備は、主にエンジンなどパワートレーン関係のユニットを生産する大手自動車メーカーの工場にお納めしています。しかし、今は100年に一度の大変革期。カーボンニュートラルに対応したEVシフトが本格化すると、エンジンなどの生産量は確実に減少し、当社の仕事量も大幅に減少する可能性があります。

当社はこれまでも環境の変化とお客さまのご要望に対応するかたちで、少しずつ事業領域を広げてきました。

以前は製缶板金加工・据付工事のみでしたが、2008年のリーマンショックで仕事量が激減したのをきっかけに、設計からの一貫生産体制を構築しました。2015年頃からは、機械的な動きがある“からくり装置”を手がけるようになり、お客さまの製造現場の改善にいっそう深くコミットするようになりました。

自動車の電動化に関連するところでは、燃料電池車(FCV)の主要ユニットを生産する工場の付帯設備もお納めするようになりました。クリーンルームでの使用を想定し、YAGレーザ溶接機を導入して、耐食性に優れたステンレス材やアルミ材の製作にも力を入れています。

今回の“電動からくり装置”の取り組みは、電気・電子制御のノウハウを持たない当社にとって大きな挑戦でした。半世紀にわたって手がけてきた製缶板金加工技術と、動力を持たない“からくり装置” ― そこに電子制御技術を組み合わせることができれば、当社の強みをさらに強くすることにつながり、新しい価値を提供できるようになると考えました。

  • 画像:自動車工場向け“電動からくり装置”を新たに展開デモ機の「からくりシューター」。小型コンピュータ「Raspberry Pi」、小型協働ロボット、小型カメラ、小型モーターで構成されている
  • 画像:自動車工場向け“電動からくり装置”を新たに展開開発中の小型AGV。5V動作の小型モーターのため、モバイルバッテリーでも稼働する。小型カメラが床のテープを認識しながら走行する

電子制御の知識を独学で習得

― “電動からくり装置”の開発に取り組むきっかけはあったのでしょうか。

磯谷 直接のきっかけは、ロボット活用コンサルティングを手がけているCOBOT.TPS代表の猪口哲也さんからお声がけをいただいたことです。猪口さんは、当社のお客さまでもある大手メーカーの生産技術者として、生産性向上やコスト削減、自動化に従事し、協働ロボットの実用化にも取り組んでいらっしゃいます。

猪口さんとは従来の生産付帯設備の仕事を通じて交流があり、2020年春頃に「制御装置(PLC)など本格的な制御を手がけている会社はほかにもあるが、現場改善の手段としてはコストが高すぎる。ラズパイを使ったシンプルな装置なら御社でも十分対応できる。よかったらやってみないか」とお誘いをいただきました。

― プロジェクトメンバーはどんな方々ですか。

磯谷 “電動からくり装置”の開発プロジェクトを立ち上げたのは2020年6月。成田恵治顧問がリーダーとなり、若手社員の宮城小太朗さん、ベトナム人エンジニアのブイ コン クエンさんを加えた3人でスタートしました。成田顧問と宮城さんは電気制御やプログラミングの知識・経験がまったくありませんでした。それぞれ、猪口さんからアドバイスを受けながら独学で知識を身につけていきました。

特に成田顧問は、当社のお客さまでもある大手搬送機器メーカーで機械設計として25年、その後はエンジニアリングの知見を持った営業職としてたしかな実績をつくってきました。2019年4月に当社に入社したばかりなのに、まったく経験のない電気制御やプログラムを学び、若いエンジニアを引っ張ってくれている。そのエンジニアとしての探究心と、労を惜しまない姿勢には頭が下がります。

  • 画像:自動車工場向け“電動からくり装置”を新たに展開同社の中核工程である溶接・製缶工程(本社工場)
  • 画像:自動車工場向け“電動からくり装置”を新たに展開組立中の搬送設備(本社工場)

会社情報

会社名
株式会社 産技
代表取締役
磯谷 充
本社工場
愛知県豊田市秋葉町5-29-1
吉原工場
愛知県豊田市吉原町下細池93
電話
0565-32-3818
設立
1971年
従業員数
45名(パート・外国人技能実習生を含む)
主要業種
①自動車生産ライン内の付帯設備および各種搬送設備、からくり省力化装置の設計・製作・据付工事/②フレックアンカー工事(装置・機械のケミカルアンカー工事)/③既設設備の撤去工事・改造工事など

つづきは本誌2021年5月号でご購読下さい。

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