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人を思いやる“無私の心”を養う

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新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染拡大にともなう緊急事態宣言が5月末まで延長された一方で、感染者発生件数が少ない府県では緊急事態宣言が一部解除されました。外出自粛や休業要請も一部緩和され、感染防止と経済活動の難しい共存が始まりました。そんな中で、新型コロナのことが片時も頭から離れずに、ストレスをためる方々が増えています。

私もストレスの影響か、先日、消化器内科を受診しました。院内感染を危惧して事前に電話で予約し、指定された時間に受付を訪れると、私以外の患者はひとりだけ。感染防止のため、予約制で“3密”を避けていました。

1年ごとの内視鏡検査もお願いしようと思いましたが、「日本消化器内視鏡学会からの通達により、新型コロナ感染予防のため、内視鏡による検査は当分の間は受け付けない」とのことで、通常の検診のほかには、いつもの薬を出してもらうことしかできませんでした。先生によると、ストレスが原因で来院する方が増えているということでした。受付には飛沫感染を防止するためにビニールカーテンがかけられ、会話時の飛沫や、金銭授受時の接触を避ける配慮がされていました。

スーパーマーケットやコンビニエンスストアなど対面販売するお店のレジカウンターには、このようなビニールカーテンやアクリル板を使ったスニーズガードが設置されるようになりました。そのため、市場ではアクリル板が品薄になっているようです。

ある板金企業は、ステンレスでアクリル板の取付枠や架台を製作し、大手飲食チェーンや地元のクリニックにスニーズガードを提供しはじめています。地域の中小製造企業が連携して、「新型コロナウイルスに負けないものづくりをしていこう」と、感染防止のための器具や装置を開発する動きもみられます。本業の受注減少を補うまでには至りませんが、社会貢献や自社製品開発に積極的に取り組む姿勢が評価されています。

そのほかにも、感染防止に対応した機器や、医療従事者が使うフェイスガードを試作した企業もあります。別の企業は、地元の工業会を通じて県から「医療現場で不足するフェイスガードを大量に製作してほしい」と要請され、それに応えようと取り組みました。結果として、量産はプレス加工で対応することになり、受注できませんでしたが、「自分たちも何か力になりたいという気持ちで試作をした」ということでした。

限られたお客さまですが、このほかにもアルコール消毒液の容器を製造する装置や人工呼吸器に必要な部材加工など、新型コロナの感染拡大で一部の仕事が忙しくなっています。

そんなさなか、ある企業経営者と電話で話をしたおりに、語っておられた言葉が耳に残りました。

「世のため人のためにという思いは、裏を返せば、自分のために他の人も努力してくれている、という信頼があるから生まれる。日本人にはそうした“無私の心”がある」。

「新型コロナとの戦いでは、医療従事者の方々が身を粉にして、他者のためにがんばってくれている。“聖職”とみなして遠ざけ、甘えてばかりではいけないと思い、当社も感染防護器具の開発に取り組んだ。自分は社会のために何ができるか、自分の会社には何ができるかと考え、企画から数日で試作品をつくった。まだまだ検査したり評価を得たりする必要があり、手探りの状況だが、『自分も何かをしなくてはいけない』という気持ちを忘れず、誠実な対応をしていきたい」。

このような人を思いやる“無私の心”を養うことが、これからの世の中では必要になると思いました。

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