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「自分がやって50、人をやらせて50」

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夏の甲子園(第105回全国高等学校野球選手権記念大会)で優勝した慶應義塾高等学校野球部の「部訓」が話題となりました。

森林貴彦監督の恩師でもある上田誠前監督の時代につくられたそうですが、その内容は現在の企業経営にも通じるものがあります。11月7日未明に放送された「NHKラジオ深夜便」の「明日への言葉」で、上田前監督ご自身が提唱した部訓の「エンジョイ・ベースボール」について語っておられるのを聞き、感銘を受けました。

「エンジョイ・ベースボール」とは、監督やコーチに言われたこと、指導されたとおりのことだけをするのではなく、自分自身が考え、判断しながら取り組むことで「楽しむ野球」ができるのだ、という考えだとわかりました。だからこそ社会人になって、上司から指示されたことを忠実に実行するだけでなく、時にそれがまちがった指示、やり方だとわかれば、正すことのできる人材でなければならないということにもつながっていきます。「指示待ち人間」で言われたことだけをする、これまでのやり方だけを踏襲している社員の多い企業は、変化対応力を失い消えていくことになります。

「部訓」には、「自分一人で生きていると思うな。自分一人で野球をやっていると思うな。周りの者に感謝の気持ちを持て。感謝の気持ちは『ありがとう』世の中にそれほど以心伝心はない。言葉は使ってはじめて活きる。/時間厳守。組織が成り立つ、人の信頼を勝ち取る最大の武器。/個と全。グランド出たら個人の技術、精神力を高めるための最大の努力をせよ。そして同時にチーム全体の流れ、ムードを考えてプレーせよ。1人1人がキャプテンだと思っているチームのみが勝つ。自分がやって50、人をやらせて50。」(原文ママ)とあります。この言葉も名言だと思います。

これまでの日本企業は、上下関係が重視される「縦社会」といわれてきましたが、これからは個人一人ひとりが考え、判断して、行動する、そして仲間を動かしてチームで目標達成を目指す「横社会」が重要になっていきます。

上田前監督は米国の大学野球のチームで1年半、コーチをした経験から、指導も米国の野球に準じてきたと話されていました。「点を取られたら取り返す」という意気込みで、選手一人ひとりに思い切ってバットを振らせ、日本では御法度だったジャンピングスローも教えたといます。

日本の野球では、バットを短く持ってゴロを打つことを教えてきた。ゴロが転がれば相手の野手がエラーをするかもしれない、取ったボールを一塁手に投げる時に暴投するかもしれない、ランナーを進塁させることもできる。だからゴロを打つ。しかし、米国の打撃コーチから「ゴロでは外野のフェンスを越えられない」と言われ、野球観が変わった、と。

「ストライク」(strike)はそもそも「打つ」という意味の動詞で、野球の審判が口にするそれは「打て!」というバッターへの“忠告”なのだといいます。また、「ボール」(ball)は「unfair ball」(アンフェア・ボール) ― つまり「打てない球投げんな」というピッチャーへの警告の意味があったといいます。だからこそ「大差で負けていても、ツーアウトからでも、逆転は可能と考えることができるのが野球ともいえます。

日本ではトーナメント形式の試合が多いが、米国では総当たりのリーグ戦で戦う場合が多いので、敗者復活もある。勝たなければ後がない日本とは試合への向き合い方にもちがいがあるとも指摘されていました。

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