健康寿命の延伸と増え続ける医療費
歳を重ねてくると、毎年受診する健康診断や人間ドックで注意を喚起されることが増え、医療機関のお世話になる機会も増えていく。受診する外来の診療科も内科・整形外科・皮膚科・眼科・歯科とさまざまで、休みの日に2~3カ所の病院・診療所をはしごすることもある。重症化する前の予防的意味合いの通院でも、せわしない1日となる。
通院のたびに感じるのが、外来を訪れる患者の多さ。特に75歳以上の後期高齢者が圧倒的に多いことに驚く。
現役世代は保険適用でも3割負担だが、後期高齢者は1割負担(2022年10月からは一部2割負担)。ドラッグストアで市販薬を購入するよりも、外来で診察してもらって処方される薬の方が安く手に入ることもあり、病院通いは増えるばかりだ。
厚生労働省の発表によると、2023年度に病気やけがなどの受診で医療機関に支払われた医療費の総額は47.3兆円。2022年度から2.9%(1.3兆円)増加し、3年連続で過去最高を更新している。特に団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となったことで、75歳以上の医療費は18.8兆円と4.5%増え、医療費全体の39.8%を占める。75歳以上の1人あたり医療費は平均96万5,000円で、75歳未満の平均(25万2,000円)の約4倍となっている。
10月号の特集企画で検体検査装置の仕事を手がける企業を取材したが、どこも安定的で右肩上がりの受注が継続している。
人口減少の影響もあって、厚生労働省が発表している「令和4年(2022年)医療施設(動態)調査・病院報告の概況」調査によると、20床以上のベッド数を備えた病院の数は8,156施設で、前年から0.6%減った。その一方、歯科まで含めた診療所の数は17万2,948施設で、前年を上まわった。
日本フランチャイズチェーン協会が発表した7月度の国内コンビニエンスストアの全店舗数は前年から0.2%減の5万5,684店。病院・診療所の数はコンビニの3倍あまりとなっており、その数に驚いた。
そんな中で検体検査装置の需要が伸びているのは、少子高齢化が進む中で、国民の中で「健康寿命」に対する関心が高まり、いまだ有効な治療方法がない疾患に対する医療ニーズなども注目され、予防的な観点も含め「検査」に対する要求が高度化しているという要因もあるようだ。
平均寿命が延び、「人生100年時代」といわれるようになって、「健康寿命」の延伸―生活習慣病などの病気になったり、高齢になることで介護が必要になったりする不健康な期間をできるだけ短くすることへの要望が強まっている。
国が2019年に発表した「健康寿命延伸プラン」によると、2016年は男性72.14歳、女性74.79歳だった健康寿命を、2040 年までに男女とも2016年比で3年以上延伸し、75歳以上(男性75.14歳以上、女性77.79歳以上)とすることを目指している。
この目標を実現するためにも予防的な意味での通院と「検査」が必要となって医療費が増加し、検体検査装置を含めた医療機器の需要にもつながっている。
それにしてもGDPの8%にも相当する国民医療費の上昇に歯止めをかけないと、財政破綻が起きてしまう。その一方で病院の数が減り、半数の病院が赤字で経営が成り立たなくなっているという現実もある。働き方改革にともなって医師の働き方にも変化が起きている。
限りある命を健康に過ごしたいという人々の願望にこたえるためにも、医療のあり方について真剣な議論が必要になっている。