視点

時には「行雲流水」の気持ちに

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2023年年初の三が日、天候にも恵まれ、暖かく過ごすことができました。元旦の初詣に出かけた氏神様も、多くの参拝者が鳥居の前から行列をつくり、神前へ進んでいました。この2年間は中止していた甘酒やお神酒による接待も再開し、いつもの初詣の風景が戻ってきたと感じました。

帰宅すると年賀状が届いており、ゆっくり読むことができました。加齢とともに賀状のやりとりを辞退する旨を知らせてくる知人も増えましたが、賀状でのみ消息を知る友人もおり、懐かしい顔を思い浮かべながら楽しいひと時を過ごしました。

その中に「これからは『行雲流水(こううんりゅうすい)』で日々をゆっくり生きていきたい」と記された賀状がありました。空をゆく雲や川を流れる水のように、深く物事に執着しないで自然の成り行きに任せて生きていきたいという気持ちが伝わってきました。

本人は電力会社に入社して以来、長年原子力部門に勤務し、原発の安全・安心な運転に心を砕いてきました。東日本大震災以降は原子力規制委員会や経済産業省の会議に参加するためたびたび上京し、たまに会うこともありましたが、「廃炉・脱原発」の世論には「これからのエネルギー問題を考えない『脱原発ありき』の姿勢は問題」と指摘していました。

その後、関連会社へ出向になったと便りをもらい、それから1年もしないうちに退社したと知らされました。退社後は「おもちゃの病院」のボランティアとして子どもたちのおもちゃの修理、碁会所通い、家庭菜園での有機野菜づくりと、晴耕雨読の日々を送っているようです。

そんな知人から「他からの力に逆らわないで成り行きに任せていく」という生き方を選択したと知らされ、うらやましく感じるとともに、夢や執着心をなくして成り行きに任せる生き方を否定したい自分をあらためて確認することになりました。

人の一生の中で夢や生きることへの執着をなくすことが本当にできるものなのか。

私などいまだに夢を持ち、お客さまとの出会いを通して感動をいただき、それを少しでも業界の方々に知っていただきたいという一念で雑誌づくりに執着しています。「欲」や「得」という考えはありませんが、お客さまとつながっていたいという強い思いがあります。サミュエル・ウルマンの詩句「青春とは人生のある時期ではなく、心の持ち方を言う」を思い起こしながら、青春時代のように夢を持ち、変化対応力を持ちながら自身の生き方に執着したいと願っています。

昨今の世界情勢や世の中のさまざまな事件・事故は、人がさまざまに持つ夢や執着が原因になっていることが多いのも事実です。ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席のワンマン政治にも、夢や執着が大きく関わっているように思います。それは時に独善・独裁とも批判されます。

政治家をはじめ世の中でリーダーと呼ばれる人々には、夢や理念に対する強い執着が欠かせません。しかし他方で、それは時の移ろいとともに柔らかく変化していく必要があると思います。変化を拒み、それに我執すると、プーチン大統領のように世界を巻き込む災難を引き起こすことにもなりかねません。

夢や理念への執着は世の中のリーダーにとって大切なことですが、加齢とともにそれが我執になると、周りに悪影響をおよぼすことがあります。それだけに世の中の流れに沿って柔軟に変化させていくことが必要です。 時には「行雲流水」の気持ちで、行き詰まったり焦ったりしている状況から距離を置き、自然体で自身を振り返ることが必要なのかもしれません ― 1枚の賀状からいろいろなことを教えてもらいました。

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