視点

畑に肥やしをやり、耕し続けることで幸せを育てる

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7月号の本欄で「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉を紹介したところ、読者の方からメールで「愚者は幸福がどこか遠い所にあると思い込んでいる。賢者は幸福を足もとに育てている」という言葉を教えていただきました。

この言葉は米国の詩人・サックス奏者のジェームズ・オッペンハイムの言葉なのだとか。メールには「特別なことをしなくても、当たり前の日常の中からでも幸せを感じることができる。派手なことや突拍子もないことばかりに目を向けていると、見えるものも見えなくなってしまう。足もとに目を向けて、身の丈に合った幸福を見つけ育むことが大切だと思う」とありました。この方はすでに第一線を退かれていますが、長年のお付き合いがある業界人だけに、この言葉からいろいろ考えさせられました。

取材で多くの方々とお目にかかりますが、よくお聞きするのが「うちの会社はどこそこに比べて遅れている」といった言葉です。謙遜混じりではありますが、このように他社を引き合いに出して自分の会社を卑下した言い方をされる場面に出会うことが意外に多くあります。

他社と比べて「隣の芝生は青い」と嘆く前に、自分の会社ができること、実現してきたことを列挙してみると、意外に多くの特長 ― 強みが見つかります。そのツールとしてSWOT分析をやってみるのもひとつの方法でしょう。自社の強み・弱みが見つけられるだけでなく、危機やチャンスもわかってきます。

そうした取り組みをしないままに自社の弱みだけを誇張して「あんな会社になりたい」と考えることは、足もとに目を向けず遠くへ幸せを探しにいくことと変わりがないと思います。それよりも自社の強みを探し、強みをさらに強くするために何をしなければいけないのか、と考えた方がポジティブになれます。

言い換えると、自分の畑に肥やしをやり、耕していけば必ず大きな実りがあることを信じてやり続ける。今の環境で最善を尽くし、リスクを避けながら、チャンスをモノにするために最大の努力をしていくことが重要です。そのためにはまず、社員を信じて彼らに肥やしをやり続けることが大切です。

製造業界でグローバル化が叫ばれた際に海外へ出ていくことがトレンドだと考え、中国・マレーシア・タイ・ベトナムなどに進出された企業もありましたが、グローバル化は海外へ出ることだけではありません。中国・タイ・フィリピン・ベトナム・インドネシアなどの新興国から技能実習生・特定技能人材・高度人材を採用し、ダイバーシティに対応した会社もありました。

中には、10年以上前から入社している高度人材の中から部長、リーダー、サブリーダーを何人も誕生させている企業もあります。自社の足もとを見て、適材適所の考えで国籍を問わず、組織の核として活躍する人をリーダーとしています。その会社では外国人社員が全体の1/4を占めるまでになり、ダイバーシティマネジメントを実践されていました。「これからも海外へ出ていくことは考えていません。日本に本籍を置く会社として地に足をつけてグローバル化、ダイバーシティ化を進めていきたい」と経営者は語っておられました。

この企業は代々操業している工場をグローバル化し、世界8カ国から優れた人材が日本人に交じって作業をしています。こうした例を紹介すると「当社の能力でダイバーシティマネジメントなんかできるわけがない」と却下される方もいらっしゃると思いますが、どんな環境にいたとしても、自分が持てる肥やしをどんどん撒いて耕し続けることで、足もとの芝生は青々と育っていきます。足もとに「幸せ」を育てていきましょう。

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