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稲盛和夫氏の「6つの精進」に学んだこと

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元京セラ名誉会長の稲盛和夫氏が8月24日に亡くなりました。一代で京セラを創業し、大企業に発展されました。さらにKDDIの発足、日本航空の再建、2大政党制の必要性から小沢一郎氏らが立ち上げた「民主党」を応援、加えて私塾「盛和塾」を開講。世界中の中小企業家を育成するなど幅広い活動をされていたことから、その死を惜しむ論評や生前の氏の発言録がさまざまなメディアで紹介されています。

「経営の神様」と称されたのはパナソニックの創業者の松下幸之助氏と稲盛氏ぐらいだ(エコノミスト誌)と評されています。

私も稲盛氏の「経営の原点12カ条」「6つの精進」を読み、感銘を受けた一人でした。中でも「6つの精進」すなわち、「誰にも負けない努力をする」「謙虚にして驕らず」「反省のある毎日を送る」「生きていることに感謝する」「善行、利他行を積む」「感性的な悩みをしない」は、今もみずからを振り返るため、時々反すうしています。

その中でも「誰にも負けない努力をする」の「仕事を好きになることが大切です。好きであればこそ仕事に没頭することができます。またより良いものを目指そうという気持ちも生まれ、自然に創意工夫をするようになります。仕事に惚れ込み、夢中になり、人並み以上の努力をする。この誰にも負けない努力がすばらしい結果をもたらしてくれるのです」という言葉には励まされてきました。

また、「謙虚にして驕らず」は「実るほど頭を垂れる稲穂かな」ということわざとともに、私の座右の銘の一つです。そして「生きていることに感謝する」は比叡山延暦寺の酒井雄哉大阿闍梨の「一日一生」とともに、毎朝出かける前にみずからに言い聞かせることが、儀式のようになっています。それをすることで、前日までの不徳を反省し、今日というかけがえのない一日をしっかり生きてゆこう、という意欲につながっていると実感しています。

これまでお目にかかった経営者の中にも「盛和塾」の卒業生の方がいらっしゃいました。それぞれ経営理念を重視され、特に「利他の経営」を大切にされていることを教えていただきました。「自分のことだけを考えるのではなく自分が豊かになりたいと思うならば、周囲も豊かになるように考え、会社を経営する」という「利他の経営」は、弱肉強食の市場原理の中ではなかなか実行できない考え方かもしれません。しかし、「競争」から「共創」、そしてSDGsを実現していく中では必要な理念になると思います。

結果としてそうした考えを実行されている経営者は「自前主義」という考えを捨て、特徴を備えたそれぞれの企業の強みをより強くして、弱みが補完できるような連携を考えた取り組みを進めています。自社商品の開発や、オーバーフローする仕事を補える関係をつくって「共生」できるネットワークづくりを目指しておられました。

また、稲盛氏が実践された「アメーバ経営」を、国内のみならず海外のお客さまが社内で実践されていた事例には驚きました。取材で台湾にうかがったおりにお会いした董事長が、自社の経営組織を「アメーバ経営」になぞらえた小集団組織にされ、それぞれが自律して機能する運営ができるように努力されていました。目の前に数多くの付箋が差し込まれた「アメーバ経営」の書籍を持ってこられ、ひとしきり経営理念を語られました。

あらためて稲盛氏の講演集などをひもとくと、「経営者が立派な会社経営をしたいと思うならば、『ほかに善かれかし』と思う『利他の心』を持ち『心を高める』ことが不可欠であると考えて、会社経営を続けてまいりました」と語っておられました。稲盛氏の真摯な言葉にあらためて感銘を受けました。

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