Interview

デザインの力 ― 「モノづくり」と「コトづくり」の融合

エンドユーザーやバイヤーを巻き込む開発手法

西村拓紀デザイン 株式会社 代表取締役/クリエーティブディレクター/デザイナー 西村 ひろあき 氏

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画像:デザインの力 ― 「モノづくり」と「コトづくり」の融合西村ひろあき氏

グッドデザイン賞(10件)、iFデザイン賞(5件)をはじめ、国内外で20件以上のデザイン賞の受賞歴をもつデザイナー・西村ひろあき氏。武蔵野美術大学を卒業後、パナソニックでプロダクトデザインにたずさわったのち、2013年に独立。企業ブランディングからプロダクトデザイン、新規事業開発、グラフィックデザイン、アートまで、幅広い領域で活躍している。

とりわけ西村氏は、中小製造企業とのコラボレーションを積極的に推進してきた。これまでに、町工場ステーショナリーブランド「Factionery」㈱Qulead五光発條㈱㈱関東精密㈱栗原精機)、医療用ウェアラブルチェア「archelis」㈱ニットー)、高耐荷重・コンパクト平台車「TOROCCO」㈱坂田鉄工所)、空間制作モジュール「BIOTRI」㈱ヒラミヤ)、江戸切子がモチーフの高級耳かき「zig」理化電子㈱)など、町工場とのコラボから生まれたさまざまなブランドを展開。これらの企業のなかには、㈱ニットー(横浜市)や㈱ヒラミヤ(川崎市)といった板金企業も含まれる。

中小製造企業の間でも異業種連携により自社商品の開発を目指す動きが活発化するなか、「モノづくり」(町工場)と「コトづくり」(デザイン)との融合について数々の実績を持つ西村氏に話を聞いた。

「デザイナーはモノがつくれない」

― パナソニックから32歳で独立して、デザイン会社を立ち上げられました。

西村ひろあき氏(以下、姓のみ) 独立して実感したのは、当たり前のことですが「デザイナーはひとりではモノがつくれない」ということです。プロジェクトを進めるなかで、デザイナーは「モノをつくる」ことに関しては何もできない人種だと改めて気づかされました。

そうしたなかで、モノをつくれる町工場の方々と知り合いたいと考えました。横浜の馬車道に「mass×mass」というコミュニティープラットフォーム施設があるのですが、そこには中小製造企業やベンチャー企業やクリエイターが入居し、交流もさかんに行われています。町工場の社長の方々とも、そこで出会いました。

交流を深める中で耳にしたのが「10%でも20%でも良いから、自社商品をつくって地に足がついた売上を立てたい。でも、いざ自社商品をつくろうとすると何をつくったら良いかわからない」という話でした。

私は、モノはつくれませんが、考えることはできます。町工場の人たちは、自社技術を生かして良いモノをつくりたいと思っている。ピッタリ合うのではないかと思いました。

それから、町工場の方々とのコラボレーションが始まりました。最初に手がけた町工場ステーショナリーブランド「Factionery」をきっかけに、ネットワークが広がっていきました。これまで、何らかのかたちで仕事をしてきた町工場は、30社くらいだと思います。アルケリスのプロジェクトに誘ってくださったニットーの藤澤秀行社長とも、そうしたなかで出会いました。

画像:デザインの力 ― 「モノづくり」と「コトづくり」の融合左:町工場ステーショナリーブランド「Factionery(ファクショナリー)」のラインナップのひとつ「めくれるクリップ」(設計・開発・製造:五光発條㈱)。「日本文具大賞2018」の機能部門で優秀賞を受賞/右:同じく「Factionery」の「カラビナ」(製造:㈱関東精密)。嵌合の技術の高さを生かした可動部がまったくないキーチェーン

市場では大手も中小も関係ない

― 大手メーカー出身の立場から見て、中小製造企業とのコラボによる製品づくりにはどんな難しさがありますか。

西村 パナソニックで手がけていたようなマスプロダクトと、町工場と一緒につくったプロダクト―市場ではその2つが同時に並びます。小さな事業体の製品であっても、市場に出てしまえば、まったく同じ土俵で戦うことになります。

ですから、町工場とコラボするプロダクトも、市場で大手メーカーの商品と並んでも価値を認めていただき、購入していただけることを目標にします。一番難しいところで、そういう意識や考えかたは、大手メーカーに勤めた経験が生きていると思います。

― 中小製造企業とのコラボで世に出た製品は多いのでしょうか。

西村 企画倒れに終わるものは、ほとんどありません。「Factionery」のプロダクトも、現在Amazonやヨドバシカメラで販売していただいています。ラインナップのひとつである「めくれるクリップ」は、私がクリエイティブディレクションを担当し、バネ加工会社の五光発條さん(横浜市)が加工しました。固有技術を生かした独自性の高い製品として、「日本文具大賞2018」の機能部門で優秀賞をいただきました。大手文具メーカーがひしめき合うなかで、町工場がつくったプロダクトが選ばれたことで、開発チームも自分たちのやりかたに自信を深めることができました。

アルケリスは、2017年に中国の「Design Intelligence Award」で、世界36カ国・地域の2,720件エントリーの中から選ばれたトップ22の作品を対象とした「DIA Innovation賞」を受賞し、「2018年度グッドデザイン賞」の「グッドデザイン・ベスト100」と「グッドフォーカス賞[技術・伝承デザイン](中小企業庁長官賞)」を受賞しました。

小さな町工場でも、製品開発に集中して、大手メーカーに負けないモノをつくっていけば、多くの方に認めていただける事例になったと思います。

左:医療用ウェアラブルチェア「archelis(アルケリス)」(企画・制作・製造:㈱ニットー)/右:手術中にアルケリスを使用したときの様子。腰の痛みに阻害されることなく手術に集中できる左:医療用ウェアラブルチェア「archelis(アルケリス)」(企画・制作・製造:㈱ニットー)/右:手術中にアルケリスを使用したときの様子。腰の痛みに阻害されることなく手術に集中できる

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