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クリティカルな時代だからこそ、リーダーシップが求められる

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最近、板金業界でも女性経営者の活躍が目立っている。今月号の巻頭インタビューに登場された海内工業㈱の海内美和社長もそのおひとりだ。2014年10月に3代目社長に就任し、祖父の代から続く精密板金工場を発展、成長させている。2008年のリーマンショック直後に入社されたので、この業界に足を踏み入れてまだ7年のフレッシュウーマン。しかし、今ではすっかり社長業も板につき、大半が自分より年長の作業者をまとめ、技術開発型の製造業として前のめりの経営を推し進められている。

また、南関東で板金業を営んでおられる女性経営者は、旧来の組織・人事制度・給与制度を改めて、経営改革、改善に取り組まれていた。

祖父が、あるいは父親が大志をもって立ち上げた企業だけに、社員のためにも事業を安定して継続させ、社員の力を最大限引き出せる、笑顔があふれる会社にしたい、とおふたりが語っていたのが印象的だった。

おふたりとも自社の強み・弱みを分析する手法としてSWOT分析を試みられ、強みをさらに強く、弱みをカバー・改善する努力をされていた。男性・女性の性別は関係なく、おふたりは“経営者”としての資質にあふれ、すでに“経営者”のカオをしておられた。

ところで先々月17日、都内で全国の素形材関連の中小製造企業の女性経営者が集まり「ものづくりなでしこ」が発足した(関連記事:第1回「ものづくりなでしこ」設立総会が開催)。私も案内状をいただいたので顔を出したが、参加者の半数は「サポーター」と呼ばれる男性経営者で、私が取材で訪問したことのある有力板金企業の経営者も参加されていた。

代表幹事の渡邊弘子・富士電子工業㈱社長は艶やかな着物姿でそつのない対応、開会の挨拶も男性社長に比して遜色のない社会の情勢や会社の経営のことを話されていた。時には、子育て中のエピソードなども交え、会場内から多くの共感と激励の拍手があった。発言には“なでしこ”本来の強さと逞しさがあった。

当日はサプライズで、政務の合間を縫って安倍首相が会場に駆けつけ、挨拶をされた。(首相官邸のWebサイトでも紹介

その中に「ものづくり中小企業の、部品や加工の技こそが、メイド・イン・ジャパンの強さの源だと確信をしております。そんな皆さんが、存分に力を発揮し、豊かになれる日本をつくっていかなければいけないと、今、気合いを入れているところであります。アベノミクスでは、成長の果実が循環し、がんばった方に正当に成果が届いていく、そのことを実現したいと、そう考えているのです」という趣旨の発言があった。

安倍首相は5月26~27日に開催された伊勢志摩サミットの議長国として、サミットを総括。その中で「世界経済は2008年のリーマンショック前の状況に似ている」との認識を示し、「世界各国は財政政策や構造改革などを行う必要があるという点で一致した」と述べた。海外メディアの中には「安倍首相が説得力のない(リーマンショックが起きた)2008年との比較を持ち出したのは消費増税延期を考えているからだ」といった報道もあった。その後、消費増税が2年半先送りされたことで、海外メディアの分析は見事に的中した。増税なき経済再生が可能か否か、後世の歴史が証明するのだろうが、先行きはますます厳しさを増し、世界経済は“クライシス”ではないが、“クリティカル”な状況である。

男性でも女性でも、また直系でなくても社員の中からでも、社長としてのふさわしい器と先見の明を持ったヒトがいれば、育てて託していく勇気も必要だろう。

このような時代だからこそ、経営者のリーダーシップが試されている。

「クライシス」(crisis)は「実際に発生した重大な危機」、「クリティカル」(critical)は「深刻な」「危機的な」の意。

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