板金論壇

“コトづくり”の重要性

コモディティー化・デジタル化が進む中で

『Sheetmetal ましん&そふと』編集主幹 石川 紀夫

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“モノづくり”から“コトづくり”へ

製造業では“モノづくり”から“コトづくり”をしなければいけないといわれるようになって久しい。そして今では“コトづくり”が製造業復活のキーワードとして取り上げられることが多くなってきている。

なぜ“モノづくり”だけではなく“コトづくり”の必要性が主張されるようになってきたか。それは、製造業の多くの分野においてモノがコモディティー(汎用品)化し、“モノ”を売るだけでは利益を上げることが困難になってきたからだ。

中国やアジア諸国に代表される新興国の躍進によって、先進国よりもはるかに低いコストで高い品質の製品を生産できる国が増えてきた。たとえば、100円ショップの商品は新興国で生産されていることが多いが、日常使う分には何の不便も感じない。テレビや新聞などでは、廉価な商品の使い勝手の良さ、デザイン性の良さ、コストパフォーマンスの良さなどが紹介され、「賢い消費者」の購買意欲をあおり、陳列棚からあっという間に消える事例も頻発している。

製品の製造プロセスにおけるデジタル化と部品のモジュール化が進むことで、熟練技術をそれほど必要とせず、市場で入手できる部品・モジュールを組み合わせることで、高度な製品をつくることができるようになり、“モノづくり”の相対的な付加価値は低くなった。

一方で、情報通信技術の発達により、SNSなどのコミュニケーションツールを活用して、ユーザーを含む多様な企業や人々がコラボレーションすることにより、新しい価値が生み出される事例も増えてきた。そのような事例においては、商品の価値は“モノ”自体の機能にあるわけではない。それよりも、“モノ”に付随する新しいサービスや、ユーザーにとっての新しい利用体験をつくり出すことに「価値」が見いだされるようになってきた。

「使用価値」に着目した商品企画

“モノ”から“コト”に関心が移ってきたのは1980年代。米国の流通業界で消費者のライフスタイルに合わせた売り場づくり、シチュエーションづくりが行われ、消費者ごとのシチュエーションに応じて、商品の「使用価値」を体験させるようになり、そのような状態を“コトづくり”と呼ぶようになっていった。

その結果、マーケティング業界では商品自体が持つ「交換価値」よりも、製品やサービスを顧客が使用する段階における「使用価値」に着目した商品開発を行うべきだと提案されるようになった。そして“モノ”と“サービス”を一体化させ、ユーザーが購入した後の「使用価値」や「経験価値」を高めることを重視する考え方が主流になっていった。

製造企業とユーザーとの関係は、商品を販売した段階で終わるのではなく、ユーザーが商品を使用している間も継続する。このような考え方は、製造業のサービス化(サービタイゼーション)の考え方とも共通しており、流通業を中心とした売り場づくり、シチュエーションづくりだけでなく、製造企業がサービスを通じて顧客との継続的な関係の中から「使用価値」を生み出すこともまた“コトづくり”といわれるようになった。

結果、商品はその商品によって生み出される「使用価値」 ― 付加価値で判断されるようになっていった。これにより“モノづくり”を超える事業モデル、あるいは“モノづくり”を補完する考え方として“コトづくり”が主張されるようになった。

つづきは本誌2020年2月号でご購読下さい。

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