製造業で躍動する女性たち

「超微細溶接」という市場を創造するためのデジタルマーケティング

技術者たちを「ヒーロー」として生かすのは社長の役目

株式会社 マツダ 取締役 松田 あやかさん

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画像:「超微細溶接」という市場を創造するためのデジタルマーケティング取締役の松田あやかさん

独自技術をデジタルマーケティングでPR

読者の中には「超微細溶接のマツダ」と聞いて、ピンときた方もいるかもしれない。

㈱マツダは精密板金・薄板溶接に強みを持つ企業で、特に同社の代名詞ともいえるのが、ファイバーレーザ溶接機を駆使した板厚0.05㎜からの薄板・微細溶接だ。薄板・微細というだけでなく、熱によるひずみを抑える技術力も評価が高い。「第35回優秀板金製品技能フェア」(2022年度)ではこうした技術を駆使して製作した「THE EARTH」が厚生労働大臣賞を受賞した。

もうひとつの特徴と言えるのがSNSやメールマガジン、ソリューションサイトなどを活用したデジタルマーケティングだ。2022年に微細溶接で組み上げた「1㎜角サイコロ」(SUS304・板厚0.05㎜)をTwitter(現X)に投稿すると一気に拡散され、リツイート数は8,500以上、「いいね」は3万を超えた。ネットメディアでも取り上げられるなど大きな反響を呼んだ。

そんな同社でマーケティングを担当しているのが、松田洋一社長の息女で取締役の松田あやかさんだ。

新規事業の立ち上げにあたり2018年に入社

同社は1968年、製紙産業がさかんな静岡県富士市で創業した。当初は製紙工場の生産設備やダクトなどの製作が中心で、加工した製品を納めるとともに設置工事も手がけていた。1989年には現在地に移転し、レーザマシンを導入して精密板金加工を始めた。1999年に松田洋一氏が2代目社長に就任して以降は、人材育成制度や工程改善、社内システムの構築など、さまざまな社内改革に取り組んできた。

人口減少や少子化、ICT化などの構造的な要因により紙の需要が減少し、製紙産業が落ち込みを見せ始めると、同社も新たなマーケットを開拓していく必要に迫られた。そんなとき、医療系の企業から「直径1.0㎜の棒の先端に0.5㎜の部品を溶接できないか」という問い合わせがあった。松田社長は話を聞くうちに、こうした微細溶接が可能なサプライヤーが少ないことを知り、同社の強みである溶接技術を生かすことができないかと考えた。

しかし、一般的に極薄・微細とされる領域は「板金加工では対応できない」と思われやすく、なかなか仕事が出てこない。それまで同社は生産設備部品など一般的な板金加工の仕事がほとんどで、新たな業種や市場の開拓は意識してなかったが、「板金加工でも極薄・超微細溶接に対応できる」ことを広めるためにはWebサイトやSNSを活用して宣伝し、認知してもらう必要があった。

経営コンサルタントなどの協力を得て、松田社長と夫人でWebサイトの基盤部分は製作したが、今後も定期的に更新していくことなどを考えると難しいと感じた。そこで、松田社長はデジタルネイティブ世代でパソコンの操作に長けていたあやかさんに協力を求めた。

  • 画像:「超微細溶接」という市場を創造するためのデジタルマーケティング微細溶接で組み上げた「1㎜角サイコロ」(SUS304・板厚0.05㎜)。非常に技術力のいる製品だが、同社にはこれをつくれる作業者が複数人いる
  • 画像:「超微細溶接」という市場を創造するためのデジタルマーケティング「第35回優秀板金製品技能フェア」(2022年度)で厚生労働大臣賞を受賞した「THE EARTH」

技術者をヒーローでいさせることが社長の役目

両親から「好きなことをやりなさい」と言われて育ったというあやかさん。大学卒業後はテレビのADをした後、落ち着いた仕事をしたいと都内で経理事務を行っていた。松田社長から要請を受け、2018年に同社に入社したが、当初は事業承継者になる予定はなかったという。

「父から『新しくマーケティングやWebの運用をやりたいと思っているので、手伝ってくれないか』という話をもらい、2018年に入社しました。私は特段、パソコンやWeb関係に精通していたわけではありません。マーケティングのことは何もわからず、書籍やウェビナーを見たり、勉強会に参加したりと、ゼロから勉強していきました」。

「女性として、板金加工業に入ることに抵抗を感じなかったわけではありません。板金業界は男性の世界というイメージが強く、工業系の大学出身でもない、ものづくりも全然わからない私が板金屋になるのかとハードルも感じました。ただ私の場合、マーケティングという切り口からだったので、入りやすかったと思います」。

「今でも忘れられないのが、入社して1週間後に開催された展示会での出来事。ブースに私しかいないタイミングでお客さまから加工サンプルについて尋ねられました。しかし知識のない私ではお客さまの求める回答ができなかった。そのとき『勉強をしなければ』と火がつきました」。

「事業承継について考えはじめたのは入社3年目。当社の作業者たちは図面を見せればすぐに自社で加工可能かどうかや、ほかの加工と組み合わせれば対応できるなどの判断ができます。これは知識や経験、発想力などが組み合わさってできることで、決して当たり前の能力ではありません。実際、お客さまと話していても設計部門にそうした能力を持った人材が少なくなっているといった話を耳にします。そんなすごい能力を持つ人たちをちゃんと『ヒーロー』として扱いたい―それはヒーロー自身ではなく、社長の仕事ではないかと気づいたとき、事業承継を考えました」(あやかさん)。

会社を引き継ぐことを決意したあやかさんは経営者として必要な知識を身に付けるため、2020年2月に職業訓練法人アマダスクールのJMC(経営後継者育成講座)を受講した。

「受講者は全員、板金企業の後継者で互いを意識し合いながら切磋琢磨していました。他社を知ることは、自社を強く意識することにもつながりました。薄板・微細溶接の技術があるということは、普通ではない。そこが武器になるということを改めて実感しました」(あやかさん)。

  • 画像:「超微細溶接」という市場を創造するためのデジタルマーケティング技術者の価値を高める「ひとづくり」に力を入れている。エントランスには工場板金技能士などの資格試験の合格証書や優秀板金製品技能フェアの賞状などが飾られている
  • 画像:「超微細溶接」という市場を創造するためのデジタルマーケティング技術コラムを更新するあやかさん

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会社情報

会社名
株式会社 マツダ
代表取締役社長
松田 洋一
所在地
静岡県富士市五貫島字地神1148-1
電話
0545-61-3252
設立
1984年(1968年創業)
従業員数
30名
主要事業
微細加工、溶接、精密板金加工、レーザ切断加工各種製缶・配管、各種ダクト製作工事
URL
https://www.k-matuda.co.jp/

つづきは本誌2024年9月号でご購読下さい。

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