特集

脱炭素社会に貢献する「SBT」認定企業

独自開発の工法で「省エネものづくり」を提案

従業員数8名の会社が挑む脱炭素経営

株式会社 津田工業

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画像:独自開発の工法で「省エネものづくり」を提案①独自開発した「クリンチングスピードファスナー工法」(国際特許取得)で加工を行うパンチングマシンEMK-3510MⅡ+ASR-2512N/②使用されるネジ径の分だけでナッターをそろえて常時スタンドにスタンバイする「ナッター段取りレススタンド」

「新工法は技量を凌駕する」

画像:独自開発の工法で「省エネものづくり」を提案津田義久社長

㈱津田工業は「新工法は技量を凌駕する」をキャッチコピーに掲げる岐阜県各務原市の板金加工企業だ。1963年の創業から60年以上にわたり培ってきた豊富な板金加工の知識と経験、独自の着眼点と問題意識で、板金の新たな設計手法を積極的に発信している。

特徴的なのは業界で一般的な溶接での組立を廃止したことだ。自社開発した工法を活用することで溶接をせずに部品を締結できる。これにより品質の安定化、コストダウン、納期短縮、作業者の負担軽減のほか、塗装が不要になるため塗装工程とその前後で排出するCO2も削減できるとしている。こうした取り組みが評価され、2019年と2021年には岐阜県産業経済振興センター事業の「事業可能性評価事業」において事業可能性大のA評価を受けている。

従業員8名と小規模ながらも独自技術を開発、省エネなものづくりを提案し、私募債の発行なども行う同社が、2023年6月に中小企業版「SBT」(Science Based Targets)の認定を取得した。削減目標は「2030年までにScope1(直接排出)とScope2(間接排出)の温室効果ガス排出量の絶対量を2021年比で42%削減する」となっている。

知財をどう生かすかが課題

同社は2015年に津田義久氏が2代目社長に就任してから、津田社長のアイデアと知識を生かした独自技術の開発に挑んできた。

「クリンチングスピードファスナー工法」は、タレットパンチプレスにカシメ治具ベース・板カシメ用ダイチップおよび製品母材、プレスカシメ雄ねじを同時にクランプ固定し、自動で位置決めしてプレス締結する、溶接に頼らないカシメの結合方法だ。経験が浅い社員でも簡単に操作できるうえ、一つひとつを溶接する必要がないため、従来の溶接工法の4~6倍、専用機単発プレスの2~3倍の処理能力を実現した。

「フットペダルスタンド」は、充電式の電動ハンドナッターツール・ハンドリベッターツールを取り付けてフット式に変換したスタンド。フットスイッチで工具を操作するため、工具を片手で持ち続けられるほか、ワークを両手で持って加工できるので大物・大型ワークのカシメ作業も楽にできる。

「ナッター段取りレススタンド」は、使用されるネジ径の分だけでナッターをそろえて常時スタンドにスタンバイすることで、段取りレスで作業を行える。各サイズのファスナーナットを同時に取り付ける工業製品も段取り時間なしで対応できる。

自社商品の「フォークるン」は、フォークリフトを利用した反転機能付き金属スクラップボックス。人の手が触れることなく、フォークリフトから降りることもなく、回収ボックス内のスクラップを大型ボックスに投入、そして元に戻すまでを完結できる。この製品の販売で同社は「令和3年度事業可能性評価事業」のA評価にも認定されている。

産学連携にも取り組んでおり、三重大学大学院機械工学専攻の尾崎仁志助教とレーザマシンLC-1212αⅡを使ったレーザ溶接の実用化を進めている。

しかし、これらの知財をどう生かしていくかが課題だった。

画像:独自開発の工法で「省エネものづくり」を提案左:レーザマシンLC-1212αⅡでエレベーター操作ボックスのパーツを突き合わせ溶接する/右:自社製品の「フォークるン」。フォークリフトに乗ったままスクラップの廃棄まででき、作業者の負担が減少した

2023年6月に中小企業版SBT認定を取得

津田社長が初めてSBT認定を知ったのは2021年、取引銀行である十六銀行の担当者からだった。当初は「今後取り組むべき課題であるのはたしかだが、あまり実感がわかなかった」(津田社長)という。しかし次第に新聞などで「脱炭素」や「カーボンニュートラル」を目にする機会が増え、いよいよ無視できない問題になってきたと感じるようになった。

そこで2023年2月21日に岐阜県主催で開催された「脱炭素社会推進フォーラム」に参加。脱炭素に向けた取り組みを行っている県内企業やコンサルティング会社の講演を聞き、中小企業版SBT認定を取得しようと決意した。

「当社の場合、お客さまから脱炭素に向けた要望があったわけではありません。ただ、中小企業も今後は確実に得意先から加工品に対してどれくらいCO2を排出しているか回答を求められるようになってくる。それならば早め早めに動いておいた方が良いと思いました。自社が省エネ対策をあまりしていない段階、電力会社の再エネ化があまり進んでいない段階から始めないと大幅な削減は難しいというのもあります」(津田社長)。

目標達成のためにはまず、自社の状況を知る必要がある。過去1年分の電気代・ガス代・灯油代などのわかる資料をコンサルタントに提出。それをもとに作成されたデータベースに情報を入力し、自社のCO2排出量を算定。削減目標も定めた。そして2023年4月に申請を行い、2カ月後の6月にSBT認定を取得した。

画像:独自開発の工法で「省エネものづくり」を提案左:HG-1303によるエレベーター操作ボックスのケースの曲げ加工/中:1.2mまでの垂木が入れられる薪ストーブで今冬は灯油から削減していく/右:薪には鋼材を購入したときに出るスキッド材を利用する

会社情報

会社名
株式会社 津田工業
代表取締役
津田 義久
所在地
岐阜県各務原市金属団地80-4
電話
0583-71-1422
設立
1989年(1963年創業)
従業員数
8名
主要事業
エレベーター・エスカレーター・配電盤・空調機器・熱交換器・LED照明器具などの部品製作
URL
http://www.tsuda-kogyo.co.jp/

つづきは本誌2023年11月号でご購読下さい。

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