Interview

デジタルプレス加工のプロセス見える化・知能化技術開発

技術立国だからこそ「産」と「学」が連携した教育が必要

首都大学東京 システムデザイン学部 楊明 教授

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画像:デジタルプレス加工のプロセス見える化・知能化技術開発楊明教授

一般社団法人日本塑性加工学会は2017年に「プロセス可視化・知能化技術分科会」という新たな分科会を発足した。サーボプレスの普及により塑性加工のデジタル化が進み、さらにIndustrie 4.0などの次世代生産技術が求められるなか、塑性加工プロセスの見える化・知能化に関する要素およびシステム技術の研究開発が求められるようになっている。同分科会ではこれらを達成するため、各種センサー技術(ハードセンシング)、プロセスシミュレーション技術(ソフトセンシング)、CAE技術(最適設計)、さらにこれらの技術をサーボプレスに適用したデジタル制御技術の調査・研究を行っている。

そんななか、プロセス可視化・知能化技術分科会で主査を務める首都大学東京・楊明(ヤン・ミン)教授、同分科会幹事を務める日本大学・髙橋進教授職業能力開発総合大学校・村上智広教授の3人が取り組む「デジタルプレス加工のプロセス見える化・知能化技術開発」の研究が平成29年度の天田財団「重点研究開発助成A(グループ研究)」に採択された。

この研究では各種関連分野の研究者3人が連携し、サーボプレスに代表されるデジタルプレス加工のプロセスの見える化・知能化の技術課題に統合的に取り組んでいる。

デジタルプレス加工のプロセスの可視化・知能化に取り組んだ経緯やこれからの展望、また教育者視点での産学連携について、楊教授に話を聞いた。

塑性加工の見える化・知能化

― 塑性加工を中心とする金属加工業界では、以前から加工にともなう金型や成形プロセスの状態を見たいといったニーズがありました。IoT化が進んでいるなかで産業界の可視化・知能化に対するニーズやシーズについてお聞かせください。

楊明教授(以下、姓のみ) IoTやIndustrie 4.0がブームとなり、見える化・知能化の重要さが再認識されています。しかし、こういった取り組みは以前から行われていました。1990年代には、日本が中心となってIMS(Integrated Manufacturing System:統合生産システム)に関する国際的な研究開発プロジェクトが進められていて、それは今のIndustrie 4.0に近い考え方でした。そして、FMS(Flexible Manufacturing System:フレキシブル生産システム)などの自動化生産技術が注目されました。そういった意味では、日本はかなりはやくからデジタル化に取り組んでいました。

塑性加工学会では、CAF(Computer Aided Forming)分科会を発足させて塑性加工プロセスのシステム化について議論していました。そこには加工にともなうさまざまな情報を収集、整理分析してデータベースを構築する必要があります。CAF分科会では、加工プロセス途中のマシン・金型・材料の状態をインプロセスで見るため、ピエゾセンサー(圧電センサー)やAEセンサー(圧電素子センサー)や荷重計などを活用して情報を収集し、人工知能を用いた情報処理や専門知識を体系化してコンピュータに記憶させ、推論や問題解決などを自動的に行わせるエキスパートシステムを構築する取り組みも行われていました。

当時、京都大学大学院で曲げ加工の知能化技術を研究していた私もその研究に関わりました。その後、アマダの技術研究所で曲げ加工の自動化に関連する研究を行ったこともあります。しかし、当時の技術ではセンサー技術がまだ不足していて、情報処理技術やインターネットなどのIT関連のインフラが不十分だったことなどの理由から、注目度が低く、実用化までは程遠いものでした。

画像:デジタルプレス加工のプロセス見える化・知能化技術開発デジタルプレス加工プロセスセンシング装置の概要

条件を定量的に理解して初めて、定量的なプロセス設計ができる

― そういった経緯を経て、今日再びプロセスの見える化・知能化が注目されるようになった要因には、どのようなことが考えられますか。

 プロセスの見える化・知能化技術が再び注目されるようになったきっかけのひとつは、サーボプレスの登場だと私は考えています。サーボプレスによってプレス加工もデジタル化を実現したことになります。しかも、サーボプレスは商品化も企業への導入も世界に先駆けて日本が最初に行っています。しかし、現状ではサーボプレスの性能をまだ十分使いこなせていないのが実情です。理由は、プレス加工に関する考え方が従来と同じ「職人が自分の経験から条件出しを行って加工をする」のまま変わっていないからです。サーボプレスには、さまざまなモーションがあり、プログラムで簡単に変えることができます。いろいろなモーションをうまく使えば、より適切な条件で製品をつくることができるはずなのですが、残念なことにその認識が弱いです。

そのような問題意識から、塑性加工学会が一般社団法人日本金属プレス工業協会などと共同で、サーボプレスの使い方を研究し、普及することを目的とした「サーボプレス利用技術研究会」を立ち上げました。

さまざまなメーカーやユーザー、大学とチームをつくり、8年間の共同研究を行った結果、さまざまなモーションを用いたプレス加工の効果を示すことができましたが、これを実際に各種製品の加工に適用するためには情報が足りないことがわかりました。加工に関する各種情報を分析し、定量的に理解して初めて、定量的なプロセス設計ができます。そのためには、プロセスの見える化が重要です。

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