Interview

溶接技能の伝承・教育にIoT技術を活用

新たな時代に対応する溶接現場の再構築を目指す

Creative Works 代表 宮本 卓 氏(宮本溶接塾 塾長、一般社団法人 リーマンサットスペーシズ 代表理事)

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画像:溶接技能の伝承・教育にIoT技術を活用宮本 卓 氏

東京・江戸川区 ― 首都高速7号小松川線が船堀街道を跨ぐ高架からほど近い工場街。その一角にある、空へ向かって突き出したアンテナがひときわ目立つ工場建屋。ここに「Creative Works」「宮本溶接塾」、そして民間宇宙開発団体である「一般社団法人リーマンサットスペーシズ」の事務局がある。

「Creative Works」代表、「宮本溶接塾」塾長、「リーマンサットスペーシズ」代表理事を兼務する宮本卓氏は、東京工業大学の修士課程を修了後、金属材料メーカーに就職。磁性材料研究に7年ほど携わった。2008年のリーマンショックを契機に退社し、祖父である宮本巌氏が創業した㈲宮本工業所に入社、溶接技術を学んだ。

学生時代から専門としてきた金属材料の知識や経験を活かし、入熱することで金属表面を溶融して接合するプロセスをアカデミックに解析しながら、異種材溶接など難易度の高い溶接にもチャレンジ。2012年度には「東京ものづくり若匠(溶接)」に認定され、Creative Worksを設立した。

新たな得意先を開拓する中で、同じ江戸川区内にある金属加工会社の仕事をするようになった。この会社を含む都内の金属加工会社3社による協同プロジェクト「東京町工場ものづくりのワ」が2013年に立ち上がると、宮本氏も事務局として参画するようになった。

2013年からは東京都立城東職業能力開発センター溶接科の講師を務め、これまでに未経験者を含む200名以上を教育した。TIG溶接などに関しては独自のノウハウを研究し、最短で上達する溶接学習法の開発に取り組んだ。

そして「東京町工場ものづくりのワ」の参加企業とともに「IT・IoT溶接ブース」を開発し、溶接技能の伝承・教育にIoT技術を活用する「Tig溶接熟練技能のIoTによるデジタル化」に取り組んだ。この取り組みは、東京都立産業技術研究センターのIoT支援事業である公募型共同研究のIoTソリューション研究のテーマとして採択された。さらにIT・IoTを活用した台車で移動可能な「家庭用Tig溶接キット」を開発。リモートワークでTIG溶接ができる取り組みを実用化した。

2018年には代表理事を務めるリーマンサットスペーシズが第1号の人工衛星を軌道に放出することに成功。今年春頃には国際宇宙ステーション(ISS)から2機目の人工衛星放出に取り組む予定だ。

公私ともに多忙を極める宮本卓氏に、新たな時代に対応する溶接技術について話を聞いた。

自由な発想でものづくりに関わりたい

― 華麗な経歴を捨て、町工場に戻られた理由は何ですか。

宮本卓氏(以下、姓のみ) 「組織人として大きな仕事の中の一部を担当するよりも、自分の裁量で思う存分に仕事がしたい」という思いがありました。入社7年目で退社し、宮本工業所で職人として溶接を学びました。リーマンショックの影響で仕事は激減していたのですが、みずからの手で製品をつくり、お客さまに納めるという現物ありきのリアルなものづくりの仕事をおもしろく感じました。

溶接作業は初めての経験でしたが、大学では6年間金属について学び、企業では7年間、主に磁性材料の開発に取り組んできました。金属材料はどのように溶融してくっつくのか、どのようにしてひずみが発生するのか ― といったメカニズムが理解できるので、その知識を応用し、ひずみの発生を抑えた溶接や融点が異なる異種材料の溶接など、難易度の高い溶接もできるようになりました。

画像:溶接技能の伝承・教育にIoT技術を活用左:カメラを搭載した溶接面/右:溶接作業のリモートワークの様子。IoTを活用してリモートワーク中の女性職人(左奥)が溶接技術を学ぶ

溶接に関心がある人のための学び舎

― 「宮本溶接塾」を開設した目的を教えてください。

宮本 宮本溶接塾は、溶接の経験がない方から技能を磨きたい職人さんまで、溶接に関心があるすべての人のための学び舎です。溶接技術を身につけると、仕事はもちろん、バイクや自転車の修理、棚やテーブルの自作といったDIYや趣味の幅もぐんと広がります。アート・工芸などの世界も広がります。

不足している溶接職人を育成して製造業に貢献するだけでなく、自立した柔軟な働き方ができるようになることで、職人一人ひとりの未来を応援したい。非製造業の人たちにも、ものづくりの喜びを伝える場を提供したい ― そんな思いで始めました。

― どういったことを学べるのでしょうか。

宮本 カリキュラムとしては、初心者の方向けの「溶接って何?」というところから、金属を溶かしてくっつける実技まで行う体験コース。本格的に学ぶことを目指す基礎習得コースや、溶接経験者を対象にした技術力アップのコースもあります。また、学校の課題製作、仕事での試作品製作、金属加工・溶接を含む製品製作をお手伝いするコースもあります。

企業様向けとしては、溶接の基礎知識の学習、溶接機の取り扱い、基本動作の習得を支援し、一緒に現場の課題解決を行う短期集中型の研修コースがあります。さらに、溶接技能の指導方法、溶接現場のレイアウト、材料選定、新規案件に対する溶接法の確立など、技術的な課題解決の支援や、現場で使えるIT・IoT技術の提供、リモートワークなどの導入サポートも行います。

これまで、板金工場で長年設計に携わっている方やプラント施工管理をされている方が、溶接を学んで業務に活かしたいと入塾されたこともあります。職場で溶接をしていない方でも、現場の職人さんやお客さまとの意思疎通に役立っていると聞いています。

― 受講されている塾生や、企業研修を依頼されている企業の数はどのくらいですか。

宮本 個人の受講生は現在のべ11名。企業研修を依頼されているのは年間約6社です。このほかに東京都立城東職業能力開発センター溶接科の講師として、200名以上の卒業生を送り出しています。宮本溶接塾としては、今後10年で1,000人の卒業生を輩出することを目標としています。

画像:溶接技能の伝承・教育にIoT技術を活用左:超小型衛星が自撮り撮影した写真データを受信するために設置した大型アンテナ/右:リーマンサットスペーシズの超小型衛星「RSP-01」(左)。撮影用のカメラが内蔵されており、撮影時にはアームが伸びることで地球を背景にした自撮り撮影を行う(右)

組織情報

組織名
Creative Works
代表
宮本 卓
所在地
東京都江戸川区西一之江4-3-5
電話
03-6326-8836
設立
2012年
URL
http://www.creativeworks.tokyo/

つづきは本誌2021年2月号でご購読下さい。

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