Interview

鉄道システム事業でグローバルプレーヤーを目指す

鉄道発祥の地・英国を走る日立製の高速鉄道車両/“地産地消”“適地調達”でSCM 構築

株式会社 日立製作所 交通システム社 正井 健太郎 社長

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画像:鉄道システム事業でグローバルプレーヤーを目指す㈱日立製作所交通システム社のマザー工場である笠戸事業所(山口県)

2015年は鉄道システム事業のグローバル展開を進める日立製作所の活躍がひときわ目立った1年だった。

2015年1月には山口県下松市にある笠戸事業所で、英国の「都市間高速鉄道計画」(Intercity Express Programme)向け鉄道車両の出荷式が行われた。IEPは2012年7月に英国から獲得した総事業費約1兆円の大型案件で、2013年7月の追加受注分を含め、計866両(122編成)の車両製造と27年半にわたるメンテナンス事業を受注した。笠戸事業所で76両が製造され、残りの790両は英国・ダーラム州の工場で2015年11月から生産を開始した。

2月にはイタリアの防衛・航空大手メーカーの鉄道関連事業を買収すると発表した。これにより、車両製造から運行管理システム、保守サービスまでをパッケージ化した鉄道インフラ事業を強化。日立の鉄道システム事業の売上高は2014年度実績で1,714億円だが、この買収により連結で4,000億円規模に拡大するとみられている。

さらに3月にはスコットランド路線向け標準型近郊車両234両(70編成)と10年間の保守契約をオランダの鉄道運行会社から受注。7月には英国の鉄道運行会社から標準型都市間車両173両(29編成)の車両製造と保守を受注。これで、2009年に納入・営業運転を開始した高速車両Class 395の174両(29編成)を含め、同社の英国向け鉄道受注車両数は合計1,447両(250編成)となった。

英国以外でもベトナム・ホーチミン向け都市鉄道、韓国大邱(テグ)広域市向けモノレール、台湾向け振子式特急車両などを受注しており、今後もグローバル展開を加速していく方針。売上高1兆円に迫ろうとしているシーメンス(ドイツ)、ボンバルディア(カナダ)、アルストム(フランス)の「世界ビッグ3」と、中国北車集団と中国南車集団が合併したことで売上規模約3.7兆円(2013年度)の超巨大メーカーとなった中国中車を追う格好だ。

そこで、同社の鉄道車両製造のマザー工場である笠戸事業所を中心に、車両システム設計部長、笠戸交通システム本部長、IEP推進本部・副本部長、笠戸事業所長と歴任し、2014年に交通システム社社長に就任した正井健太郎社長に、同社の鉄道車両のモノづくりについて話を聞いた。

世界の鉄道市場のポテンシャルは大きい

画像:鉄道システム事業でグローバルプレーヤーを目指す正井健太郎社長

―近年、御社の鉄道システム事業は、英国のIEPを中心にグローバル展開の動きが目立っています。2015年度以降の業績の見込みはいかがですか。

正井健太郎社長(以下、姓のみ) 当社単体での売上額は、2014年度実績が1,714億円、2015年度は2,150億円を計画しています。2015年度はこれに、買収したイタリアの防衛・航空大手フィンメカニカの鉄道関連事業の分が上乗せされます。買収により「4,000億円規模になる」との報道もありますが、これは過去の実績からの推計であって、実際のところはまだ精査中の段階。それ以降についても、2016-18年度の3カ年計画を策定中なので、まだ公表はできません。

―世界の鉄道システム市場は年間20兆円ともいわれています。今後も世界の鉄道需要は伸びていくとお考えでしょうか。

正井 まだまだ世界で必要とされている地域に鉄道が行き渡っているわけではありません。現在は、どちらかというと人口の増加が止まった地域で鉄道が発達している。今後、人口が増えている地域で鉄道が普及していくことを思うと、ポテンシャルは非常に大きいと思います。そうした世界の鉄道需要の伸びに対応することで、当社もシェアを伸ばしていきたい。当社は総合力を生かし、鉄道車両だけでなく運行管理システム、保守サービスまでパッケージ化して鉄道インフラ事業を強化しています。日本の国策としても鉄道の海外案件の獲得には力を入れており、様々なご支援をいただいているので、ご期待に添うようにがんばっていきたい。

―オールジャパンによる海外案件の獲得となると、企業間の調整などで難しい側面もあるのではないでしょうか。

正井 そういうことも言われますが、東南アジアの都市交通を中心とする円借款の案件―当社が手がけているベトナム・ホーチミンの都市交通や、当社の案件ではありませんがインドネシアやタイの案件も獲得でき、着々と成果に結びついていると思います。カタール・ドーハの地下鉄も100%オールジャパンではありませんが、日本が中心となって獲得した案件です。

―国内市場については、いかがでしょうか。北海道新幹線の延伸や、九州新幹線の新ルート建設のほか、JR東海が東海道新幹線のN700A系を20編成導入するといった計画も聞かれます。

正井 国内は今後爆発的に拡大する市場ではありません。しかし、そうした案件が出てきていることは、受注機会が増えるわけですから、好材料にはちがいありません。また、英国などの先進国も同様ですが、新規路線以外に老朽化した車両の入れ替え需要もあります。そこに省エネなどの新しい付加価値をつけた車両を提供することによって、新造車両の受注に結びつけていきたい。技術の進歩によって付加価値を生むことができれば、新たな需要も生まれます。

  • 画像:鉄道システム事業でグローバルプレーヤーを目指すスコットランド路線向けに234両(70編成)を受注した標準型近郊車両AT-200
  • 画像:鉄道システム事業でグローバルプレーヤーを目指す英鉄道運行会社から173両(29編成)を受注した標準型都市間車両AT-300。Class 800をベースに製作予定

つづきは本誌2016年1月号でご購読下さい。

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