好調を継続する板金企業の暑い夏
15年で半導体関連機器メーカーのトップサプライヤーに成長
外観重要部品を最適品質で提供/ファイバーレーザ複合マシンが生産性・品質向上に貢献
株式会社 イナガキ
①2017年に導入したファイバーレーザ複合マシンLC-2512C1AJ+ASR-2512NTK/②半導体関連機器向けの筐体の部品(SPCC・板厚2.3㎜)。この後、エナメル樹脂塗装を施す
「どん底」からのスタート
大手の1次サプライヤーを目指し営業開拓
代表取締役の稲垣健治氏
㈱イナガキの稲垣健治社長は現在47歳。2003年に32歳で事業を継承して以降は、「製造業の駆け込み寺」をテーマに「お客さまの喜ぶ製品づくり」を徹底追求。顧客ニーズに的確に応えるフレキシビリティーと、多品種少量生産と短納期への対応を武器に、急速に成長してきた。
稲垣社長が事業を継承した2003年当時、同社は債務超過に陥り、「どん底の状態」(稲垣社長)だったという。それまで取引していた得意先の多くは従業員数100人以下の中堅メーカーで、たとえば米国向けに輸出される移動体通信基地局の空調設備のアルミパネルなどを受託加工していた。しかし2001年のITバブル崩壊のあおりを受け受注が低迷、債務超過に陥った。回復の兆しも見えない状況で、当時常務だった稲垣社長は、前社長に「事業を引き継いで、チャレンジしたい」と申し出た。
稲垣社長は、東証一部上場の大手企業の1次サプライヤーを目指し、飛び込み営業を展開。若さゆえの大胆さと持ち前の人懐っこさ、そして後のない必死さで、次々と新規得意先を開拓していった。「お客さまの規模が大きければ、たとえ不況でも当社に任せていただけるくらいの仕事もあるはず」というシンプルな発想だった。
「まずは、とにかく使い勝手の良い会社を目指しました。多品種少量生産・短納期対応を強みに、難加工形状の製品など、同業他社が『こんなものはつくりたくない』と断るような製品を積極的に引き受けていきました。新規取引なので、最初は利益がなかなか出ず、500円の製品1個を、高速料金2,000円とガソリン代を使って納品するようなこともありました。しかし当時は、お客さまとフェイストゥフェイスでコミュニケーションを取ることが一番だと考えていました」。
そうした努力が次第に実を結び、月500円の得意先が1万円になり、100万円になり、1,000万円になった。いつしか同社が納品する製品の品質の高さと対応力が評価されるようになり、品質要求が厳しく、多品種少量生産と短納期対応が求められる半導体関連機器の仕事を中心に受注が拡大、事業も軌道に乗っていった。
Dr.ABE_Bendが自動作成した曲げ加工データを呼び出して、HDS-1303NTで加工する
溶接作業
レーザ加工設備が強力な武器に
思い切った設備投資も功を奏した。
「債務超過の状態なのだから、そのままの事業形態を続けても赤字が増えるだけ」と考えた稲垣社長は、パンチ・レーザ複合マシンAPELIOと、中古のレーザマシン、YAGレーザ溶接機を一気に導入。当時の財務状況から考えれば勇気のいる決断だったが、「何もせずに会社をつぶすくらいなら、わずかな可能性にも賭けてみよう」と腹をくくった。
当時はまだ複合マシンは普及しておらず、レーザで3.2㎜以上の厚板を切断できる企業も少なかった。稲垣社長は「レーザ加工設備は営業上、強力な武器になりました。お客さまニーズともうまくマッチして、仕事が増えていきました」と振り返る。
半導体関連機器の外観仕上げ作業
売上の10%以上を占める工作機械向けクーラントろ過装置(長手方向3m)。完成品として納めている
会社情報
- 会社名
- 株式会社 イナガキ
- 代表取締役
- 稲垣 健治
- 住所
- 愛知県名古屋市緑区鳴海町字母呂後197
- 電話
- 052-624-1077
- 設立
- 1992年(1963年創業)
- 従業員数
- 25名
- 事業内容
- 半導体用ファインシステム機器、流体制御機器、医療機器向けの精密板金加工/工作機械向けクーラントろ過装置の製造
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