航空宇宙ビジネスと自社ブランド商品、2つの新事業を展開
「競争のない世界」を目指し、ものづくりに新しい価値を
株式会社 ワールド山内 代表取締役 山内 雄矢 氏
北海道北広島市に拠点を置く㈱ワールド山内が、航空宇宙ビジネスと自社ブランド商品の本格展開を始めた。
同社は板金加工・形鋼加工・機械加工・溶接組立・焼付塗装といった複合技術による社内一貫生産を強みとし、開発支援・3次元設計から対応する「金属製品のトータルプロデュース」を追求してきた。
得意先業種は農業機械、鉄道車両、産業機械、医療機器、半導体製造装置、航空宇宙など多岐にわたる。売上の約80%が道外からで、得意先は年間800社以上におよぶ。
経済産業省の令和2年度「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」(サプライチェーン補助金)では、道内企業である㈱キメラ、札幌エレクトロプレイティング工業㈱、㈱池田熱処理工業とともに「航空機エンジン部品」を製造する共同事業が採択され、新工場の建設や最新の加工設備導入などの計画を推進している。
また、道内の二木ゴルフの店舗で、1本100万円の自社ブランドのパターの販売もスタートした。今後はアウトドア用品をはじめ、雑貨、アパレル、ジュエリー、自転車などさまざまな分野で自社ブランド商品を展開していく計画だ。
2016年4月に2代目社長に就任した山内雄矢社長は、地元・北海道の産業活性化に強い思いを持ち、「単なる下請けを脱して、メーカーにとって絶対必要な存在にならないといけない」「強いだけでは生き残れない。変化への対応力が必要だ」と語っている。
航空宇宙ビジネスと自社ブランド商品 ― ふたつの新事業に向けた思いを聞いた。
コロナ禍でも堅調なプライベートジェットのエンジン部品製造計画を推進
― 令和2年度サプライチェーン補助金で、御社を含む4社の共同事業が採択されました。この事業の内容について聞かせてください。
山内雄矢社長(以下、姓のみ) 主力製品はプライベートジェット向けターボジェットエンジン関連の部品ですが、ゆくゆくは機体や内装の部品も手がけていきます。
コロナ禍の影響で世界の航空機需要は大きく落ち込んでいますが、その一方で、富裕層を中心に、感染リスクを最小限におさえられるプライベートジェットの需要が急速に伸びています。
プライベートジェットを手がける航空機メーカーのお客さまは、主力市場である米国に生産拠点を構えています。今後は当社が窓口となって北海道に航空機部品を製造する共同事業体をつくり、一部の部品・ユニットを米国へ供給することになります。
― かなりの規模の設備投資も必要になりますね。
山内 新工場を建設する計画で、2021年冬には竣工します。新工場には自家消費型の太陽光発電システムと蓄電池システム、最新の加工設備、IoTソリューションなどを導入し、従来のスマートファクトリーを凌駕した未来型のスマートエアライン工場を目指します。
板金加工設備としては、ファイバーレーザマシンENSIS-6225AJ(9kW)と自動金型交換装置付きベンディングマシンHG-2204ATCを既存の工場に7月までに導入します。新工場には、2台目のファイバーレーザ溶接システムFLW-ENSISを導入する計画です。板金以外では5軸マシニングセンタ×5台をはじめとする機械加工設備や、すでにCFMインターナショナル(GEアビエーションと仏サフラン・グループの合弁企業)の航空機エンジン「LEAP」に搭載されている燃料ノズルチップで実績があるGE製の金属3Dプリンターも導入します。
― 航空機部品の製造に必要な認証も取得されますか。
山内 JIS Q 9100をはじめ、Nadcapなど、航空機部品の製造に必要な認証を取得します。Nadcapの中でも浸透探傷や溶接の認証は、工場建設と並行して取得準備を進めていきます。
また、顧客の要求事項を満たし、すべての認証取得・顧客承認が完了してからでないと部品の供給はできませんから、出荷が始まるのは2023年4月以降だと思います。
― プライベートジェット以外の航空機部品の仕事にも展開していくことになりますか。
山内 プライベートジェットは、ひとつのきっかけと考えています。今は低迷していますが、航空機需要はこれから確実に拡大していきます。20年後、30年後には、滑走路がいらない乗用型ドローン―空飛ぶタクシーが当たり前の世界になるでしょう。将来、ワールド山内製の乗用型ドローンを世に出す可能性まで含めてマーケティングしています。
有人宇宙ロケット打ち上げに対応したエンジン開発や、SDGsと脱炭素社会を実現するための水素活用に向けた要素技術開発といった分野にもチャレンジしていきたい。
自社ブランド商品第一弾 ― 1本100万円の高級パターを販売開始
― 自社ブランド商品の開発も進めていらっしゃいます。
山内 自社ブランド第一弾として「World Craft Design(ワールド・クラフト・デザイン)」を立ち上げ、4月1日から道内の二木ゴルフの店舗で「World Craft Design」ブランドのパターの販売がスタートしました。このパターは1本100万円(税別)のハイエンド商品で、ツアープロや高額所得者層の方々がターゲット。初日に7本が売れ、4月末時点の受注残は20本です。
100万円と聞くと高すぎると思われるかもしれませんが、私はそうは思いません。それだけのこだわりを持ち、時間をかけてつくっています。事実、買ってくださる方は「安い」とおっしゃいます。
このパターは、当社の機械加工技術と、私自身のゴルフ愛と情熱を注ぎ込み、“究極のパター”を目指して開発に挑戦しました。重心位置や転がり摩擦係数などを調査・分析し、試作を何度も繰り返し、妥協しないものづくりにこだわりました。ヘッドはSUS製で、わずかにR面になっているヘッド底面を削り出すのに約24時間かかります。ネックは、打つ時にシャフトの軸とパターの芯がずれないよう、打つ人の体型に合わせたカスタム仕様になっています。グリップはSTM社製、シャフトはグラファイトデザイン社製で、どちらもデザインからスペックまで細部にわたってコラボ開発した特注品を採用しています。
ヘッドにかぶせるカバーは、「北海道のエルメス」と言われ、平成と令和 ― 2回の「即位の礼」で使用された馬車具一式を手がけたことでも知られるソメスサドル社製の手づくりカバーを、デザインからコラボし、採用しました。板金加工で製作する陳列用什器も自社製作し、徹底的に品質にこだわっています。
― 評判はいかがですか。
山内 ツアープロからは「かつて味わったことのない打感と打音」「ヘッドのすわりが良い」「転がりの良さに驚いた」「自分が思ったところに打ち出せる」「距離感が合う」「エースパターにする予定」といった声をいただいています。
契約選手には当社がパターを提供していて、そこからゴルフファンの購入にもつなげていきたい。テレビの全国放送でゴールデンタイムにコマーシャルを流し、高額所得者層が好むファッション誌でもPRしていきます。北広島市のふるさと納税の返礼品にもなっていて、370万円以上の高額納税者の方は当社のパターを選ぶことができます。
― 高額所得者層向けの商品だと思いますが、それだけの市場があるのでしょうか。
山内 高額所得者は日本にもたくさんいらっしゃいます。当社のパターも、ひとりで2本買う方もいれば、奥さまとセットで買う方もいらっしゃいました。やはり“本物”は売れますね。
当初は、2021年度の売上全体に占める自社ブランド商品の割合20%を目標にしていましたが、思った以上にパターの売れ行きが好調で、目標を超えそうな勢いです。
会社情報
- 会社名
- 株式会社 ワールド山内
- 代表取締役
- 山内 雄矢
- 所在地
- 北海道北広島市大曲工業団地4-3-33
- 電話
- 011-377-5766
- 設立
- 1983年(1955年創業)
- 従業員数
- 120名
- 主要事業
- ステンレス製品の高度技術加工、非鉄金属加工、金属加工、レーザ加工、機械加工、溶接・組立、表面処理、塗装
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