「子育て」も「キャリア」もあきらめない働き方のモデルケースになりたい
「三代目板金屋」立ち上げから10年 ― 新商品の開発も検討中
株式会社 山崎製作所 企画営業チームリーダー 山崎 瑠璃 さん
左:山崎かおり社長/右:企画営業チームリーダーの山崎瑠璃さん
育児も仕事もあきらめない働き方を模索中
「以前はひたすら仕事をしていました。帰りが遅くなることもありましたが、仕事が楽しかったし、やりがいも感じていたので特に気になりませんでした。これから復職しますが、今は子どもがいるので、以前と同じような働き方はできないでしょうし、しばらくはするつもりもありません。それでも『子育て』と『キャリア』のどちらかを選ぶのではなく、どちらもあきらめない働き方を見つけていきたい」と語るのは㈱山崎製作所 企画営業チームリーダーの山崎瑠璃さんだ。
瑠璃さんは山崎かおり社長の娘で、同社の後継者のひとり。入社してからこれまで10年以上にわたり、かおり社長の片腕として経理業務や、オリジナルブランド「三代目板金屋」の立ち上げ、自社商品の企画・デザイン、撮影、営業、商品カタログの作成などの業務を行ってきた。
2024年4月には長男を出産し、産休・育休を取得。今回は5月からの復職を控えた瑠璃さんに、自社ブランドの展望や板金業界で女性が活躍するために必要なこと、事業承継などについて話を聞いた。
社員全員参加型のフラットな円型組織
山崎製作所は1967年、板金加工企業で働いていた山崎一正氏が創業した。当初は塗装のみを行っていたが、板金加工へと事業をシフトし、射出成型機や工作機械のカバーの製作を行うようになった。
2008年のリーマンショックの際には、同社の業績は大きく落ち込み、創業者の体調不良も重なって、廃業も懸念される事態になった。
そんな中、「社員たちの生活を守らなくては」と立ち上がったのが、当時経理担当者として働いていた山崎かおり氏だった。2009年に2代目社長に就任すると、コミュニケーション改革、ボトルネック工程の見直しと加工設備の入れ替え、経営理念の策定など、さまざまな改革を行った。
中でも重視したのが社員や社外の有識者との「コミュニケーション」を取ることだった。経営や加工の知識が乏しいからこそ、社員たちの意見に耳を傾けて話し合い、社外の人から学び取る。そうして少しずつ会社を「社員全員参加型のフラットな円型組織」へと変えていった。
また、景気に左右されない事業体制にすること、職人の誇りを取り戻すことを目標に、自社ブランド商品の開発に取り組み始めた。オリジナルブランド「三代目板金屋」は、今や同社の代名詞とも言えるまでに成長した。自分たちがつくった商品を使う人の声が直接届くようになったことで、職人たちのやりがいや意欲の向上にもつながった。
左:2022年10月に竣工した㈱山崎製作所の新工場、敷地面積は約3倍で作業スペースが広く、動線もスムーズになった。太陽光発電設備を設置して、空調を取り付けるなど社員が働きやすい環境の整備にも注力した/右:新工場に立つ山崎かおり社長
自立し、バリバリと働く母の姿に憧れ
瑠璃さんが入社したのは2014年、20歳のときだった。「自立したバリバリと働く女性になりたい」と考えていたとき、真っ先に思い浮かんだのが母親の姿だったという。
しかし、同社で働きたいという瑠璃さんの願いは「子どもに同じ苦労をさせたくない」と考えるかおり社長により2度、断られることになる。それでもあきらめられずに食い下がり、「職業訓練法人アマダスクールの板金総合(1カ月)コースで勉強すること」「ほかの社員よりきびしく指導すること」を条件に入社が許可された。
経理の仕事の合間に加工現場の手伝いをしていくうち、瑠璃さんは金属に対し「かっこいい」と魅力を感じるようになっていった。「自分用に金属製のアイテムをつくってみたい」とかおり社長に相談したところ、商品化も視野に入れて製作してみることになった。当時、同社ではすでに男性社員たちによる自社商品の開発が始まっていたが、設計段階でつまずき、難航している状況だった。
「『こんなものがあったらいいな』という個人的な思いつきから始まりました。当時は今のように開発チームがあるわけでも、自社商品の開発に力を入れていくという方針をはっきりと掲げていたわけでもありません。すぐに売上が見込める商品でもなく、周囲から遊んでいると思われてしまうのではという不安もあったので、定時を過ぎてからデザイン案を考えたり、写真の加工をしたりしていました」(瑠璃さん)。
左:自社ブランド「三代目板金屋」のヘアアクセサリー「KANZASHI」。デザイン、形状、カラーなど豊富なラインナップをそろえている/右:「三代目板金屋」の企画・営業・販売・情報発信などを担当する企画営業チームのメンバー(左から2番目:瑠璃さん)
会社情報
- 会社名
- 株式会社 山崎製作所
- 代表取締役社長
- 山崎 かおり
- 所在地
- 静岡県静岡市清水区原134-2
- 電話
- 054-361-0610
- 設立
- 1970年(1967年創業)
- 従業員数
- 25名
- 主要業種
- 工作機械関連のカバー・架台・フレーム、制御盤関連・医療機器関連・食品関連、自社ブランド商品など
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