「ナノドット構造」は世界を変える可能性を秘めた研究分野
研究成果や知見は社会実装されてこそ ― 研究成果の「アウトカム」が必要
東海大学 総合科学技術研究所 特任教授 橋田 昌樹 氏
半導体や太陽電池、バイオマテリアルをはじめとしたさまざまな最新技術の製造・開発には、微細な加工を施すレーザ技術が不可欠と言われている。そうした中、物質にごくわずかな時間だけレーザを照射し、その照射痕に生じる微細構造物を制御することで、材料表面に新たな機能を付与する新技術の開発が進められている。しかし微細構造物ができるメカニズムや詳しい制御方法については未だ解明されていない部分が多い。
東海大学・橋田昌樹特任教授は2000年頃から物質表面に高品位なレーザを照射することで形成されるナノ構造についての研究を進めてきた。量子科学技術研究開発機構(QST)、大阪大学(接合科学研究所)、京都大学(化学研究所、エネルギー理工学研究所)、大阪産業大学などの大学・研究機関との共同研究や国内外の企業との共同研究にも積極的に取り組んでいる。また、公益財団法人天田財団の研究助成に応募、2018年には重点研究開発助成、2022年には一般研究助成に採択されている。
現在は材料表面に微細構造を付加することで「ウイルストラップや不活化・抗菌効果向上」「太陽電池の反射率低減による性能効率向上」「リチウムイオン電池の性能向上」などの応用研究を進める一方、材料表面に新たな機能を付与することを目的とした光源開発などにも取り組んでいる。
機能性材料の可能性とその応用について、橋田教授に話を聞いた。
レーザ加工で材料表面に新たな機能を付与する
― 橋田先生は材料表面に高品位なレーザを照射することで微細構造物を形成し、材料に新たな機能を付与する新技術の研究を進めています。
橋田昌樹教授(以下、姓のみ) 機能性材料の設計製作では、材料の表面の幾何学的形状・結晶の組成が重要な役割を果たすことが知られています。特に表面に所望の幾何学的形状(高さ・大きさ・密度)を付加することで、その「かたち」により決まる電気・熱の伝導性、磁性、光物性、結晶性によって新しい材料特性を付加できるようになることが期待されています。
材料表面に材料の破壊閾値を超えるエネルギーの短パルスレーザを照射すると、アブレーション(飛散剥離)し、短パルスレーザ特有の周期的な微細構造物が材料表面に自己組織的に形成されます。この微細構造物はレーザ波長より短いピッチの格子間隔を持っています。しかし、その形成機構についてはわかっていないことも多く、微細構造物をどこまで小さくできるか、どのようにして周期の均一性を高めるか、どのように制御するかなどの糸口がつかめませんでした。
そこで私は微細構造物の形成機構解明を目的として、レーザと物質の相互作用の観点から研究に取り組みました。そして、レーザ照射された金属表面から放出されるイオンは多光子吸収と光電場による電子放出が関わっていることや、微細周期構造の形成時に放出されるイオンのエネルギースペクトルと類似していて微小空間からクーロン爆発によりイオンが放出されていることを明らかにしました。また、微細構造物の格子間隔がレーザフルエンスに依存することを発見、形成機構にはレーザとレーザ生成プラズマとの相互作用が関わっていることがわかりました。
加えて、材料の結晶性はアブレーションにより制御できることを明らかにし、役割の異なる複数のパルスからなる複合レーザ照射により周期的微細構造物の大きさをレーザ波長λの1/13程度まで微細化することに成功。照射条件を最適化することで極めて高い周期性(均一な周期性)の微細構造物が形成されるなどさまざまな新しい現象を見出しました。
このように材料表面に所望の微細加工を施すにはレーザと材料との相互作用を理解し、制御することが求められます。
プロフィール
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橋田昌樹(はしだ・まさき)
東海大学・特任教授(兼京都大学・研究員)。
1996年3月に大阪大学大学院 工学研究科 電磁エネルギー工学専攻で博士(工学)を取得。1986年以降、レーザー学会レーザー技術振興センター・技術員、大阪大学レーザー核融合研究センター・技術補佐員、レーザー技術総合研究所・研究員、フランス原子力研究所・研究員、レーザー技術総合研究所・研究員、京都大学化学研究所 先端ビームナノ科学センター・レーザー物質科学研究領域准教授、同複合基盤化学研究系・特定准教授などを歴任し、2021年10月より現職。
専門分野はレーザ物質相互作用物理、レーザ微細加工、高強度レーザ科学、レーザ生成量子ビーム発生、レーザ科学技術など。
※研究室Webサイト:https://laser.rist.u-tokai.ac.jp/
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