産業界のニーズに応える長寿命の「超高耐力ガス光学素子」の開発
電気通信大学 レーザー新世代研究センター 道根 百合奈 特任助教
2015年から光学素子に着目して研究を開始
電気通信大学 レーザー新世代研究センターの道根百合奈特任助教の研究テーマ「長寿命気体中粗密波構造を利用した加工用ファイバーレーザー制御素子の開発」が、天田財団の2023年度「一般研究開発助成」にレーザプロセッシング分野で採択された。
道根特任助教は2010年に電気通信大学(以下、電通大) 情報理工学部 先進理工学科に入学。学部3年生のときに米田仁紀教授の研究室で見たレーザに感動。「私もこれで実験がしてみたい」とレーザを使った研究を開始した。2014年には博士前期課程に進学。2015年頃から光学素子に着目し、「ガス媒質の光学素子」の研究をはじめた。
「中性ガスは通常の固体に比べて圧倒的にレーザ光に対して耐力が高いため、もしこれで光学素子ができれば、より小型で、損傷を気にしなくて良いレーザシステムをつくれるようになると考えました。しかし最初は、どんなガスを使うかも含め、手探りの状態でした」と当時を振り返る。
最初は窒素ガスでの実験を試みた。窒素はプラズマ状態にするとわずかに発光し存在感がある。これなら光を制御できるのではと考えたが、思うような成果が得られず素材や条件を変えながら実験を繰り返した。研究が進んだきっかけは米田教授からのアドバイスだった。
「当センターは1980年に核融合用レーザの開発を目的に設立されました。米田教授も電通大に来られた当初はレーザ核融合関係の研究をされていて、取り組まれた中に『オゾンガスをエキシマレーザの可飽和吸収体として使う』研究があり、『もしかしたらオゾンと紫外レーザの組み合わせが使えるかも』とアドバイスをいただきました」。
「実際にやってみると、そのアイデアは大当たりでした。オゾンガスへ紫外レーザをある条件で照射すると、ガス中に大きな密度分布をつくることができ、さらにそこにレーザ光を入れると、進行方向がわずかに変わっている!と感動したことを覚えています。ただ最初は光が制御できるといっても、光学素子として使えるレベルではありませんでした。ひたすら試行錯誤を繰り返し、博士前期課程の終わりあたりにようやく方向性が見えてきました。後期課程に進学するつもりはなかったのですが、『研究がおもしろい』『このまま後輩にわたすのはおしい』と進学を決意。以来、ガス光学素子を使えるものにするための研究を続けています」(道根特任助教)。
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