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板金業界で増加するM&A ― 決断する勇気

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最近、板金業界でもM&Aが活発に行われるようになってきた。

ある板金企業は、最近20数名の板金工場をM&Aによってグループ化した。この企業は、従業員規模100人超で、業界では中堅企業だが、1990年代に海外に進出し、現在では500人規模の海外工場を経営している。国内の本社では設計から抜き・曲げ・溶接までを一貫生産、塗装工程だけは協力工場に委託し、筐体板金に特化して力をつけてきた。

同社は筐体板金のEMS企業を目指している。以前は海外生産に力を入れていたが、一昨年から海外の労働コストが急上昇し、国内とのコスト競争力の差がなくなってきたことから、国内への製造回帰を進めるようになった。それまでは海外工場の設備投資に積極的だったが、一昨年からは国内工場の強化を目指した設備投資を積極的に行うようになった。

省エネ補助金、ものづくり補助金などの助成制度、エネ革税制や設備投資促進税制なども活用、効果的な設備を導入して効率的なモノづくりを推進している。そうした努力が実を結び、新たに得意先のライバル企業からも同様の筐体板金の受注に成功した。ところが道義上、ライバル企業の製品を同一工場で加工するのは抵抗があることから、現有工場では加工するのが困難になった。難渋していたところ、板金工場のM&Aの話が舞い込み、即決で買収を決めた。

この工場を従業員を含めた居抜きで購入、雇用不安もないので買収に異を唱える者はおらず、円満にM&Aを完了した。今後は買収した工場にも最新設備を導入して競争力強化を図る計画を聞かせていただいた。

また、別の板金企業では買収のために高額の資金を用意、板金加工とは直接的な関連はないが、自社で製作した板金部材を組み立て、製品化する際に必要なゴム製品を製造する会社や自社で製造した建築板金製品を現場で施工する会社を相次いでM&A、グループとしての付加価値増大を図っている。

さらに、後継者がいないある板金企業をM&Aすることで、その会社にしかないノウハウや職人の技を継承し、自社の加工能力を増大、ワンストップ加工に対応する取り組みを積極的に進めている。

M&Aは銀行が仲介することが多いが、中には専門のコンサルタント会社に斡旋を依頼、M&A候補の企業を探してもらうケースも増えている。最近は取材でいろいろな企業に出向くことが多いので、会社を買ってもらえる企業を探してほしいと、私たちに真剣に相談される経営者も見受けられるようになっている。

そうした経営者の話をお聞きすると、大半は後継者がおらず、生え抜き社員に後継を依頼しても債務保証をはじめとした与信への不安で二の足を踏まれるケースが多く、結果として善意の経営者を探してほしいという要望が生まれている。善意の経営者といっても相手も企業家、メリットのない買収話には乗ってこないので、買収交渉は難しいようだ。

社長同士は意気投合したとしても、経営者の一族や古参の社員に異を唱える者が出てきたりして話が進まない場合も多い。いずれにしても事業継承は待ったなしであり、チャンスを逃すと「成る」話も「成らなく」なってしまう。板金業界では今後M&Aが増えることは間違いない。

決断は勇気を要する。しかし、一生に一度ぐらいは決断する勇気を持つことも大事だ、とこの業界を歩いていて感じました。

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