視点

ムダと判っただけで、十分有益

LINEで送る
Pocket

私たちがお客さまの工場にうかがった際に、よく言われるのが「現場を見てムダと思った作業や工程があれば、どうすれば解決できるのか教えてください」という言葉だ。お客さまからすれば他人の目で工場の課題を探してもらい、ムダ取りをしたいということなのだろうが、そのたびに私は「ムダと判っただけで、十分有益。そのムダをこれからどのようになくしていくのかは皆さんで考えてください」と話している。というのも「ムダ」と思われることでも、現場の事情や作業者の都合で、それが最善の方法と思い実行している可能性があるからだ。これまで当たり前に行っていたことを「ムダ」という言葉で否定するのは、作業者のモチベーションを下げることにつながる可能性もある。

「ムダ」を省き仕事の業務効率化を行うことは、作業を進める上で「ムリ」「ムダ」「ムラ」を見つけ出し、作業を省いたり、なくしたりしながら生産性を高めることを意味する。作業の「ムリ」「ムダ」「ムラ」を削減するためにはやり方・方法だけではなく、段取り・工程などプロセスの見直しは当然として、ツールや設備、システムを導入したり、社外にアウトソーシングしたりと手法はさまざまある。

人口減少で生産年齢人口の減少が避けられない中で、省力化は大きな課題だ。さらに「働き方改革」の推進も求められている。コロナ禍を経験してテレワークの普及が進み、働き方そのものも多様化している中で、企業の存続・成長のためには「ムダ」を省いて生産性向上に取り組むことは必須であり、作業の効率化がよりいっそう求められている。そのためには当事者を含め、今の作業の「ムダ」を自覚し「ムダ」と判ることが大切だ。

取材先でも感想を求められる場合はそうした話をする。そして省いてもいい5つのポイント ― 「品質のムダ」「待ちのムダ」「会話のムダ」「工程のムダ」「分業のムダ」を紹介することにしている。

「品質のムダ」はいわゆる過剰品質をやめるということになる。過剰な品質を要求する発注元にも問題がある場合もあるが、作業者の自己満足の場合や仕事をやっている、忙しいというポーズ、作業者の言い訳の場合もある。「待ちのムダ」は作業が平準化されてないため、工程が複雑でバランスが取れていないことで起こっている。「会話のムダ」は作業中に無駄話するなということではなく、コミュケーションと称して「ムダ」な会議・打ち合わせを行うことだ。「ホウレンソウ」ではないが、過剰な情報は混乱を招き、過少な情報は不要な作業を増やす。ムダなやり取りは、結果として時間・コストを増大させ「ムダ」を増やす。

「工程のムダ」は工程が複雑だったり、必要以上に多かったりすると、関わる作業者が増え、「ムダ」なやり取りが増加し、ミスが起こりやすくなる。工程分割か工程統合かという問題にも関わるが、作業者の役割が増える場合が多い。「分業」は「単純」「量産」の作業効率化には有効。しかし、分業が進むことでほかの場所や作業者が何をしているかが見えなくなり、必要なコミュニケーションが十分に取れないことによって「分業のムダ」が起こる。

そして、「ムダ」の「見える化」も必要だ。使わない材料・工具・金型・測定器・機械などもある。また、生産計画による進捗・実績管理ができていない場合にも「ムダ」が発生する。

ここで述べたことは至極当たり前で、いまさらと思われる読者が多いと思う。しかし、ここでもう一度、工場に「ムダ」がないか、自身の作業を含めて見直すことが必要だと思っている。「ムダと判っただけで、十分有益」 ― そこからものづくりのプロセス改革が始まる。

LINEで送る
Pocket

関連記事

視点記事一覧はこちらから