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「成長」よりも「発展」 ― 最近の経営者の考え方

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最近うかがった2社のお客さまの経営への取り組みに感銘を受けた。

1社目のお客さまは長年の懸案だった本社工場の新築移転を実現、自動倉庫MARSに2台の複合マシンをつなげて生産能力を従来工場の1.5倍に向上された。それとともに、「2050年カーボンニュートラル」への対応とBCP対応のため、自家消費型の太陽光発電システム(発電容量50kW)を設置、会社の消費電力量の10%強をまかなっている。ゆくゆくはもう50kWを増設して合計100kWにする計画だ。

さらに、工場内にはSDGs自動販売機(募金型自動販売機)を導入。年に2回、同社が希望するところに寄付ができるため、社員の環境意識にも変化が出てきているという。40名弱の社員が、毎日の朝礼後に事務所・工場内の各所の清掃を毎週ローテーションで持ち場を変えて取り組んでいる。自分の持ち場とは異なる場所を清掃することで、工場内のものづくり工程や仕組みについてあらためて勉強する機会にもなり、社員同士の理解も深まり、ものの見方にも全体感が生まれてきているという。

2社目のお客さまは、2014年頃からフィリピン、インドネシアなどの大学と国際インターンシップの協定を締結。理工系を中心に毎年10名の学生を6カ月間受け入れている。学生たちはものづくりの工程を渡り歩き、仕事を覚えながら日本語、日本文化、ものづくりの心、社会人としての基礎、工場管理、人間学などを学べる。理工系の学生ということもあって、デジタルスキルは十分備えているので、データベースの構築などに力を発揮する。学生たちは若く柔軟で、社内の雰囲気も明るくなった。

同社は筐体系の仕事をセット受注しているので、100アイテム以上の製品それぞれを構成する300~400点のBOM(部品表)を作成。これによって製品の部品基本構成が一目瞭然となり、業務のデジタル化の取り組みもスムーズにできるようになったという。

フィリピン、インドネシアなどの学生にとって「日本で学んできた経験」は「箔」にもなるようで、6カ月の滞在で単位が取得できるほか、キャリアアップにもつながるということもあって、インターンシップに応募を希望する学生は多いという。インターンシップに参加するにあたっては渡航費をはじめ住居にかかる費用などを用意する必要があるが、中にはインターンシップ終了後も、希望して同社に就職した学生もいるという。すでに従業員の1/3は7カ国からの外国人労働者となっており、社内では英語が共通言語になりはじめている。日本人社員の英語力も向上してきている節が見受けられ、まさにダイバーシティ化された工場となっている。

いずれの企業も2代目、3代目の経営者であり、年齢も50代と若い。理念経営を進めていて、中・長期の経営計画もしっかり持っており、ビジョンも明快だ。社員の平均年齢も30代と業界平均より若い。また、社員満足度改善に強い意欲を持っておられ、社員食堂もあか抜けており、トイレもきれいで福利厚生には十分な配慮が行き届いていた。

一方の企業経営者はこんな話をされていた。

「先代は会社のシンボルツリーに1年間に1mも成長すると言われる『メタセコイア』を植栽、今では美しく大きく成長し楽しませてくれています。次代の私が新たにシンボルツリーに選んだのは『やし』の木。1年で5㎝程度しか成長しませんがどっしりとした安心感があります。企業を大きく“成長”させる、というよりもしっかりと根を張り幹が太く“発展”する企業を目指したい」。

「成長」よりも「発展」という言葉に新しい企業経営者の考え方を見た気がした。

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