Interview

モノづくりのパラダイムシフトを先取りする「板金技能フェア」

時代の変化にともなって、アピールポイントも変化する

東京大学大学院 新領域創成科学研究科 人間環境学専攻 割澤 伸一 教授

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画像:モノづくりのパラダイムシフトを先取りする「板金技能フェア」割澤伸一教授

割澤伸一教授は、1989年に東京大学工学部機械工学科を卒業、1994年に東京大学大学院工学系研究科を修了し博士号(工学)を取得。同年、東京工業大学精密工学研究所助手に任官。その後、東京大学大学院工学系研究科講師・准教授、同新領域創成科学研究科准教授を経て2015年から現職。2010年4月から2011年3月までは、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員も勤めた。

専門は、ナノメカニクス、ナノ・マイクロ加工、生産システム、人間環境情報学、生産文化。学生時代はバブルの只中だったため、モノづくりは3K職場として若い世代に敬遠されていた。「人を幸せにしようとする想いが社会貢献できる研究に結びつく」と自身の信念に沿う。人間や工作機械をさまざまなセンサーで計測し、情報処理することによって、工作機械の知能化、工作機械業界の「技術伝承」、健康で快適な生活環境の実現を目指している。

2014年からは職業訓練法人アマダスクール「優秀板金製品技能フェア」(以下、板金技能フェア)の審査委員となり、第30回では副委員長として表彰式で総評・講評を行った。今年度行われる第31回からは審査委員長として重責を果たす。

板金加工業界は現場の作業者の知識・技能に支えられているといわれ、それが日本のモノづくりの強さでもあった。しかし、これからはデジタルツールを駆使し、現場のノウハウを徹底的にデジタル化・社有化。そのノウハウを世界で通用する武器に変えるエンジニアリング人材を育成することが必要となっている。モノづくりのパラダイムシフトがこれからの板金業界をどのように変革していくのか―割澤教授にお聞きした。

センシング技術を研究

― 割澤先生は工作機械業界で「技術伝承」についていろいろ調査、研究をされていました。

割澤伸一教授(以下、姓のみ) 修士のときから、センサー・インテグレーテッド・マニュファクチャリング・システムを研究してきました。当時はバブルの絶頂期で、3Kの職業はやがて消える、とさえ言われていました。

だから熟練技術をどうやって伝承するか、熟練者でなくても扱える生産システムを考えよう―ということで、センサーを活用したユーザー・フレンドリー・マニュファクチャリング・システムを研究しました。そこから発展して、切削力をモニタリングしながらリアルタイムで加工状態を判断する研究を行い、それで学位をとりました。当時は工作機械がインターネットにつながっていることが珍しく、外部のコンピュータで制御をしたり、監視することも特殊仕様でした。それが今では当たり前のようにインターネットにつながって、Industry 4.0の時代を迎え、さまざまなセンサー情報を共有するというような製品化も行われています。

― 先生は推論エンジンを使ったエキスパートシステムの研究にも携わっておられましたが、それが今、ビッグデータ、ディープラーニングといわれるAIになってきました。

割澤 当時はAIの第2世代です。私は工作機械に「Prolog」と呼ばれる、いわゆる推論するシステムを入れ、そこに知識をいれることで、判断させるという研究、センサーから得られる定量的な情報と人間的なことを組み合わせるようなことを、人間の脳の情報処理の働きをモデルにしたニューラルネットワークも導入して実施しました。今はそれがまた新しい第3世代で進んできています。

板金技能フェアは素晴らしい

― 「板金技能フェア」と関わりをもたれたきっかけは何ですか。

割澤 いろいろな経緯があって、東京大学名誉教授の木内学先生から、4年前に板金技能フェアの審査委員を仰せつかりました。そこから参加するようになり、31回目からは審査委員長を拝命しています。

工作機械技術に関しては、切削から始まって研削、あるいは素材を中心に学部教育でやっているのですが、板金加工までは行き届いていない。そのような状況のなかでアマダグループをはじめとする板金業界の熱心で継続的な努力があって、日本の板金加工が世界のトップレベルであることを実感できます。本フェアもそのひとつですね。単品・組立・溶接・造形という部門に国内外から多くの作品の応募があり、さまざまな工夫や新しい技術導入がなされた素晴らしい作品が集結します。自慢の作品を持ち寄って、「優れている」作品に投票する、他者がどのようにしてこの優れた作品をつくり上げているのかを作品を通して知ることができる、そこで知識が共有できる、このシステムには感動しました。海外からの応募も多く、素晴らしいと思います。

また、フェアに応募することをめざして、社内の人づくりにうまく使われているということも受賞された方々からうかがっています。そのような取り組みにつながることが大切ですね。

  • 画像:モノづくりのパラダイムシフトを先取りする「板金技能フェア」第30回優秀板金製品技能フェアの表彰式で総評を述べる割澤教授
  • 画像:モノづくりのパラダイムシフトを先取りする「板金技能フェア」第30回優秀板金製品技能フェアの応募作品の展示風景

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