日本経済の底上げに役立った補助金事業
ここ10年ほど、板金業界をはじめとする中小製造企業にとって補助金事業は、設備投資のインセンティブとして有効に機能してきた。「ものづくり補助金」「IT導入補助金」「省エネ補助金」「事業再構築補助金」「サプライチェーン補助金」などを活用した設備更新により、生産性の向上や省エネ、従業員の賃上げにも大いに貢献してきた。
従業員20名規模で、「ものづくり補助」「事業再構築補助金」などを活用して大型の設備投資を行った板金工場の経営者は「短期間でこれだけの設備投資を行えたのは補助金のおかげ。補助金がなければ、これほどの設備投資はできなかった」と、その効果の大きさについて語っている。
そして「2025年度以降の補助金はかなり減る見込みと聞いています。継続される『中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金(中堅・中小成長投資補助金)』は、中堅・中小企業が足もとの人手不足に対応した省力化等による労働生産性の抜本的な向上と事業規模の拡大をはかるために行う、工場等の拠点新設や大規模な設備投資に対して補助を行うもので、最大50億円まで補助されるということですが、当社のような小規模企業には無縁です。可能性があるとすれば『省エネ補助金』で、それ以外の補助金は打ち切られるようです。そうなると自己資金だけで設備投資を継続して行うことは困難です」と語っておられた。
実際のところ、こうした補助金は中小企業の生産性向上などの所与の目的を果たしているのだろうか。
中小企業を対象とする補助金・助成金制度は、日本のみならず諸外国でも行われている。諸外国でも日本と同じように、単なるバラマキではなく、補助金を受けた企業の生産性の向上を通じて、経済全体へのプラス効果を目指している。
一般的に生産性を反映する指標としての労働生産性についてはポジティブな結果をもたらしたとする一方で、目立った効果が見られなかったといったネガティブな評価も見られる。全体としては、企業の存続、雇用、有形固定資産、売上高についてはポジティブな効果をもたらす傾向にあるが、労働生産性に対しては「効果があった」とする企業と「顕著には見られなかった」とする企業が混在している。生産手段の増加に比例して売上高が伸びただけでは生産性は上昇しないので、生産性の伸びが見えにくいのではないかという意見もある。たとえば、補助金を利用して従業員数が増えても、売上高の伸びがそれ以上でなければ、労働生産性に変化はないことになる。厳密には補助金の採択企業と不採択企業、双方の雇用や売上高のデータを数年間にわたって収集・比較しないと正確な効果は測定できないことになる。
補助金効果について明確な成果が表れない理由のひとつに、設備を売り込むメーカー側の問題を指摘する声もある。導入後の効果を予測し、「提案営業」をするのが本来の姿だが、最大で設備投資額の2/3、1/2が補助金で賄えるからお得だと、導入効果も精査せずに、外部の補助金コンサルタントの力を借りて申請するケースが圧倒的に多い。それが補助金活用の効果・成果につながっていない大きな要因のひとつでもある。
結果として生産財メーカーは補助金効果で契約も増え、結果として売上増につながり、業界全体ではここ数年の売上高が20~30%増えている。そういう意味では、中小企業対策として実施されてきた補助金制度は、日本経済全体の底上げに大きな効果があったと思われる。