知識・技能を生かした提案で「得意先から選ばれる企業」に
従業員にものをつくる喜びを感じ、前向きな気持ちで働いてもらうための方法を模索
テスコ工業 株式会社 代表取締役 内藤 浩正 氏(埼玉県シートメタル工業会 会長)
内藤浩正氏
埼玉県鴻巣市のテスコ工業㈱は、産業用機器や医療機器、通信機器、計測機器などの精密板金製品を手がけている。
社名の由来はギターブランドの「TEISCO」で、創業当時は同ブランドのエレキギター、ギターアンプの金属部品を中心に楽器関連部品のプレス加工を行っていた。1975年にタレットパンチプレスを導入し板金加工に参入してからは徐々に対応する加工・業種の幅を広げていった。
今年、創業60周年をむかえる同社の強みは、「面倒見の良さ」 ― 加工方法、VA/VEを含めた加工提案、何か問題が起きた時の対応力だ。内藤浩正社長を含め3名のスタッフが、得意先の担当者に予算や生産数量、加工する製品の形状などの情報を確認して、加工種類や加工方法も含めた提案を行い、得意先と一緒になって製品をつくりあげていく。それを可能とするのは60年間培ってきたプレス加工や金型、板金加工の知識・ノウハウだ。長期間の継続取引を行う得意先が多いことからも、同社への信頼度の高さがうかがえる。
2024年8月には鴻巣市に新工場を建設。作業動線の見直しをはかり、作業効率を向上させた。そんな同社が将来を見据えた課題として掲げたのは「人材育成」だ。同社の強みである「面倒見の良さ」を継続させるためには多能工人材が欠かせない。そうした多能工人材育成のための第一歩は「ものづくりの楽しさを感じてもらい、仕事にやりがいや誇りを感じてもらうこと」だと内藤社長は語っている。
6月末の定時総会で埼玉県シートメタル工業会の会長に就任した内藤社長に、同社の現状や工業会の人材育成の取り組みなどについて話を聞いた。
ギター、アンプの金属部品の加工から始まった
2024年8月に埼玉県鴻巣市に竣工したテスコ工業㈱の新工場
― 御社は今年で創業から60周年をむかえられます。内藤社長は専務時代からこれまで約30年、得意先や社会への貢献を目指した経営を行ってきました。
内藤浩正社長(以下、姓のみ) 当社は1965年、TEISCOのギター、ギターアンプの小さな金属部品の加工から始まりました。ギターブームが衰退してからは、楽器以外の得意先も徐々に増やしていきました。現在は楽器関係の売上は全体の5%程度で計測機器、産業機器、半導体関係、医療機器、電子機器など多様な業種の仕事を手がけています。
また加工製品の変化にともない、加工方法も変わっていきました。当初はプレス加工のみを行っていましたが、1975年にタレットパンチプレスを導入してからは徐々に板金加工の仕事が増え、今ではおよそ80%が板金加工となっています。
現在取引のあるお客さまは50社ほどで、そのうち常時取引をいただいているのが20社。売上が一番大きい業種は計測機器関係で、5社で売上の40%程度を占めます。最近は自動車メーカーの組立工場などで採用される電動バランサーのボリュームが増えていて、電子天秤の板金部品なども加工しています。ほかには血圧計の部品、半導体製造工場向けの微粒子測定器の部品、光ファイバーの接続ボックスなど。新東名高速道路の開通時には非常電話のボックスを500セット以上製造しました。その後も延伸するたびに継続してご注文いただいています。
1社あたりの売上は20%以下で、いろんな業種の仕事をさせてもらっているため、不調な業種が出てもある程度はカバーできています。コロナ禍の時期もお客さまのところで部品不足が発生し、当社の受注が止まった案件がありましたが、何とか赤字を出さずに乗り越えることができました。口コミや既存のお客さまの紹介ではじまったお付き合いも多く、お客さまに恵まれていると常々感じています。
ファイバーレーザ複合マシンLC-2512C1AJ+ASR-2512NTK。ブランク工程ではLC-C1AJとLC-2012C1NT、AC-255NTの3台が稼働する
ベンディングマシンEG-6013(中央)などが並ぶ曲げ工程
得意先に寄り添った提案で、高い信頼を得る
― 親しみやすく、安心して相談しやすいという内藤社長のキャラクターも得意先との信頼構築に一役買っているのだと思います。御社の特徴について教えてください。
内藤 当社の特徴は面倒見が良いところです。最近は部品図でいただく案件が増えているので提案しづらい部分もありますが、設計者とじかにお話しできる立場を生かし、私を含め3名のスタッフが窓口になって、予算や生産数量、形状などをうかがい、加工方法、VA/VEを含めたご提案をさせていただきます。場合によっては2つに分割して別パーツにした方がつくりやすくなるなど、当社が加工するうえで困る部分をお伝えし、改善していただくこともあります。
加工提案、品質、何かがあった時の対応などお客さまには高いご評価をいただき、継続取引に結びついています。
― 材料費や輸送費など、製造コストが増加しています。得意先への価格転嫁についてはいかがですか。
内藤 最近はお客さまからのコストダウン要求はほとんどありません。申請すればある程度の価格転嫁も容認していただけます。当社の場合はリピート品が約80%で継続取引が多く、まだまだ転嫁しきれてない部分もあります。これまではエネルギー価格や輸送費、人件費の上昇分は価格に加味していませんでしたが、4月からはそのあたりも加味した見積りにさせていただいています。
2024年5月に導入したハンディファイバーレーザ溶接機FLW-1500MTによる物流機器部品の溶接作業
デジタルサイネージ関連はTIG溶接で溶接する
会社情報
- 会社名
- テスコ工業 株式会社
- 代表取締役
- 内藤 浩正
- 所在地
- 埼玉県鴻巣市上会下577
- 電話
- 048-580-7007
- 設立
- 1965年
- 従業員数
- 42名(パート、高度外国人材を含む)
- 主要事業
- 電子機器・医療機器・産業機器・半導体製造装置・デジタルサイネージ・物流機器などの精密板金加工・プレス加工
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