製造業で躍動する女性たち

ものづくりでつながる「家族の絆」

お互いをカバーし合い、視野・思考を広げる ― 「3人そろえば何でもできる」

株式会社 橋本製作所 橋本夏生さん / 橋本彩夏さん / 橋本千秋さん

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画像:ものづくりでつながる「家族の絆」左:長女の橋本夏生さん/中央:三女の橋本千秋さん/右:次女の橋本彩夏さん

3姉妹の入社で事務・現場の両面を強化する

埼玉県川越市に通信機器や理化学機器、医療機器などの板金部品を手がける㈱橋本製作所がある。従業員が9名、それもほとんどが50歳以上というこの会社に、この2年間で20代の女性3人が入社した。3人は橋本光男社長の息女で、長女の橋本夏生さんは生産管理・経理・庶務を、次女の橋本彩夏さんは生産管理と製造業務を、三女の橋本千秋さんは製造業務を担当する。

「両親からは事業承継の話をされたり入社を促されたりしたことは一度もなく、好きなことを自由にさせてもらった」と語る姉妹が、なぜそろって同社に入社したのか。話を聞いているうちに見えてきたのは家族の絆の強さだった。

半導体や理化学機器など、幅広い業種に対応

㈱橋本製作所は3姉妹の祖父・橋本寿夫会長が、1969年に埼玉県入間郡にある自宅の敷地内で創業した。1981年には現在の川越工業団地内に工場建屋を建設して移転。以来、工場増築や設備増強、社員増員を繰り返しながら加工能力を強化してきた。創業から55年にわたり鍛え続けた技術力を軸に、初心を忘れず誠意を持った加工を行い、得意先から信頼を得ている。

同社は、半導体や医療機器、理化学機器、通信機器、省力化機械などのケースやシャーシ、パネルなどの部品を製作しており、取り扱い業種の広さと得意先からの信頼によって、バブル崩壊やリーマンショックなどの危機も乗り越えてきた。小規模企業ならではのフットワークの軽さや小回りの良さを生かした生産活動を行い、ものづくりで社会に貢献し続ける企業であることを目指し、弛まぬ努力を続けている。

取り扱う材料は50%以上がステンレスで、SUS304やSUS316の板厚3.0㎜以下のシート材を中心に、鉄系のSPCCやSECC、アルミ、銅、真鍮など。また、加工量としては多くないが角パイプ、丸棒などの形鋼加工にも対応している。リピート品の割合が高く、ロットサイズは単品から1,000個以上と幅広く、試作から量産までを手がけている。

  • 画像:ものづくりでつながる「家族の絆」生産管理を行う夏生さん
  • 画像:ものづくりでつながる「家族の絆」理化学機器部品を曲げ加工する彩夏さん

祖父や両親の志を継ぎ、事業継承を決意

姉妹の中で最初に入社したのは、次女の彩夏さんだった。

「警察官になりたくて四年制大学の法学部に入りましたが、2年生のときに現役の警察官による授業を受け『本当に自分のやりたいことはこれだろうか』と疑問を抱きました。それならばどうしようかと思ったとき、自然と思い浮かんだのが家業のことでした。小さい頃から祖父や両親の働く姿を見て尊敬していました。祖父がつくり、両親がつないできた会社に後継者がいない ― それならば自分がなろうと決意しました。当時は一人暮らしをしていましたが、夏休みなど長期休暇で帰ってくると、会社で仕事を手伝っていました。卒業する1年ほど前には両親に入社の意思を伝え、2022年4月に生産管理の担当として入社しました」(彩夏さん)。

入社後は製造工程の管理などを通じて、ものづくりの流れを理解していった。それと同時に、ものづくりの本質(加工)がわからないままでは、得意先の要望に応えることも、現場で作業する人のことも理解できないというジレンマを感じるようになっていった。近隣で金属加工を学べる学校がないか調べ、1年間、埼玉県立川越高等技術専門校(以下、専門校)の金属加工科で学ぶことを決めた。

三女の「技能五輪全国大会」への参加

彩夏さんは2023年4月にいったん会社を退職。「小学生のときから家族みんなで働くことが夢だった」という三女の千秋さんを誘って専門校に入校した。2人は切断、成形、溶接・組立といった金属加工を一から学び、3カ月ほどで2級技能士(構造物鉄工作業)の試験に合格した。

専門校では「技能五輪全国大会」への参加をサポートしており、埼玉県技能五輪地方大会に参加し、優秀な成績を収めた生徒は専門校から推薦され、出場資格が与えられる。千秋さんは技能五輪の「構造物鉄工職種」に埼玉県代表として出場することを決意した。この年の「構造物鉄工」の課題はSS400・板厚9㎜、6㎜などを使ったエッフェル塔の製作で、ほぼ機械は使わず、手加工で行うという男性であっても筋力や体力が必要であり、なおかつ0.1㎜単位の細かい精度と金属加工の総合力が求められるものだった。

「家族の力になるにはどうしたら良いか悩んでいた時に姉から専門校への誘いがあり、一緒に入校しました。技能五輪に出場することが自信につながり、会社のプラスにもなればと考え、挑戦に踏み切りました」(千秋さん)。

大会本番までは残り3カ月、千秋さんは専門校の先生たちの特別指導のもと実習を重ね、技術の向上と加工時間の短縮をはかった。最初の練習では完成までに1カ月ほどかかったが、本番直前には目標タイムの10時間を切るまでになった。

11月の本番では全国から24名が出場。うち23名が男性という状況の中、紅一点の千秋さんは奮闘し、入賞は逃したものの制限時間内に作品を完成させることができた。

「今まで一人で大きなことに挑戦した経験がありませんでした。技能五輪全国大会では“本気で楽しむ”を胸に課題に挑み、成し遂げたことで、達成感や自信を得ることができました」(千秋さん)。

2人は専門校在学中にJIS検定(溶接技能者評価試験)にも挑戦。彩夏さんはアーク溶接・半自動溶接・TIG溶接、千秋さんは半自動溶接・TIG溶接に合格している。

画像:ものづくりでつながる「家族の絆」左:TIG溶接を行う千秋さん/右:橋本尚枝取締役(左から2人目)を挟んで立つ3姉妹。尚枝取締役は姉妹にとって母親であると同時に「製造業で働く女性」のモデルでもある

会社情報

会社名
株式会社 橋本製作所
代表取締役
橋本 光男
所在地
埼玉県川越市芳野台1-103-50
電話
049-223-3234
設立
1977年(1969年創業)
従業員数
9名
主要事業
通信機器、理化学機器、医療機器、半導体機器、省力化機械、自動車、鉄道車両などの各種産業のケースやパネル、部品などの製作
URL
http://www.kkhashimoto.co.jp/

つづきは本誌2024年8月号でご購読下さい。

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