経営者に求められるハングリー精神・好奇心
7月3日に発表された日銀短観(2023年6月調査)は、「大企業製造業」の景況感を示す業況判断指数(DI)が前回3月調査から4ポイント改善してプラス5となり、7四半期ぶりに改善に転じた。
素材業種では、世界経済の減速による市況の悪化から化学では低迷が続いたものの、輸入価格の下落を受けて交易条件が改善に向かったことで、石油・石炭製品や紙・パルプを中心に前回調査から6ポイント改善した。加工業種では、前回調査から3ポイントの改善となった。需要の落ち込みから生産にブレーキがかかっている生産用機械や電気機械では悪化が続いたものの、価格転嫁が進む食料品や半導体不足の影響が緩和に向かっている自動車が大幅改善となり、全体を押し上げた。
「大企業非製造業」は、コロナ禍からの経済回復が進み、前回から3ポイント改善してプラス23となった。
大企業の景況感が改善したことを受け、板金業界でも受注状況が徐々に改善している。中でも、開発・設計型のものづくりビジネスを展開する企業に案件依頼が集中する傾向がある。
日本の中小製造業界では、これまでは客先からの支給図面どおりに部品を加工して納品する受託型ビジネスが大半だった。しかし、大手企業の資材調達部門に目利きのバイヤーが減ってきたこと、設計部門に現場を知らない若いエンジニアが増えてきたこともあって、加工現場が苦労することが増えている。製造性の検証をしておらず、不必要な寸法公差を機械的に記入した図面も多い。
そうした中で、現場に精通した板金サプライヤーが3次元CADを駆使することで、製造性の検証やつくりやすさ、コストパフォーマンスを考えた設計提案を行って、部品加工から組立・完成品まで一貫して受注するケースが増えている。中には、中小製造業の企業間ネットワークを活用して、電装組み込みやソフト開発まで手がけるケースも見られる。付加価値改善の観点からも、こうしたビジネスを目指す板金企業は増加傾向となっている。
こうしたビジネスを展開する経営者に共通しているのが、2代目・3代目経営者でありながら旺盛なハングリー精神や、「何でも見てやろう」「経験してやろう」という好奇心と押しの強さだ。
父であり祖父でもあった創業者は、職人上がりの根っからの技術者で、良いものをつくってお客さまに喜んでいただくことを望外の喜びに感じていた方が多い。
そんな先代の背中を見て育った2代目・3代目は、そうした努力により育んできた価値が、お客さまから十分に評価されていないことに矛盾を感じる。そして、自分たちの価値を正しく評価してもらうために、受け身の受託型企業ではなく、自社の価値をしっかり提案して評価してもらえる開発・設計型ビジネスへの転換を目指してきた。
世界は「不確実性の時代」になり、「先行きが不透明で将来の予測が困難な状態」になるといわれている。この時代を生き抜くには、情報収集能力・思考力・行動力が必要で、旧態依然としたやり方を踏襲し続けているだけでは先細りになってしまうのは自明の理。そうした事態を回避するために、いろいろな機会をとらえて実務以外の人脈を構築することも大切だ。どんなに優秀でも一人では限りがある。支え合える仲間(社内・社外)とのネットワーク構築が重要で、その中心人物になるくらいの心意気も必要かもしれない。
潮目が変わろうとしている今だからこそ、経営者にはますますのハングリー精神、好奇心、押しの強さ、ネットワークが求められている気がする。