Interview

コロナ禍を経て新たな段階へ進んだ板金フェア

デジタル化とグローバル化への期待 ― 「ジェネラティブデザイン」との融合も

東京大学 大学院新領域創成科学研究科 人間環境学専攻 教授 割澤 伸一 氏

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画像:コロナ禍を経て新たな段階へ進んだ板金フェア割澤伸一氏

3月18日、「第35回優秀板金製品技能フェア」の表彰式・交流会が4年ぶりに開催された。

審査委員長である東京大学・割澤伸一教授は総評の場で、海外からの出品・閲覧・投票が増加していることに触れ、地球規模で板金製品のレベルアップを目指すことが板金フェアのコンセプトとなっていることを示した。また、今回の板金フェアの特徴として、デジタル技術の活用が浸透していることを挙げ、近年注目されているジェネラティブデザインへの板金加工の適用についても期待を寄せた。

割澤教授は、人間・人工物・自然のすべてを対象に、新しい検出原理のセンサデバイス、生体情報センシング技術、センシングシステムの開発を進め、安全・安心で快適な生活環境の実現を目指して研究教育を進めている。工作機械の知能化、工作機械業界の「技術伝承」の領域でも研究活動を続けている。

2014年度からは職業訓練法人アマダスクールが主催する「優秀板金製品技能フェア」(以下、板金フェア)の審査委員となり、第31回(2018年度)からは審査委員長となった。今回の板金フェアの特徴と、そこから読み取れる板金業界の変革の可能性について、割澤教授に話を聞いた。

新しい技術展開を期待させる作品が目立つ

― 「第35回優秀板金製品技能フェア」では4年ぶりに表彰式と交流会が開催され、割澤教授も壇上で総評を述べられました。あらためて、今回の板金フェアの全体的な印象はいかがでしたか。

割澤伸一氏(以下、姓のみ) 派手さは薄れましたが、フェアの名称にもある「技能」(人の熟練の技)がよく表現された作品が多かったと思います。最新の加工技術・デジタル技術を採り入れたり、従来とは異なる工法を採り入れたり、「技術」の面でチャレンジしつつ、熟練の「技能」が融合している作品も見られました。

板金加工は「技能」から始まり、それを工業化して「技術」に置き換えてきました。今回表現された数々の「技能」は、板金加工の新しい「技術」へと展開する可能性を見せてくれました。それを今後どうやって「技術」に変えていくか。受賞作品をご覧になった技術者の方々には大きなヒントになったのではないでしょうか。

― 今回の板金フェアで特徴的だったこと、従来から変わったと感じたことはありますか。

割澤 「溶接品の部」の作品は、ある種の驚きというか、例年とはちがう作品が多かったと感じます。

ここ数年、特に「組立品の部」では、技術・技能をただ発揮するだけでなく、それをどうやって表現するか工夫している作品が目立ちました。たとえばなめらかに伸び縮みするといった動きを見せることで精度の良さを表現するような作品が増えてきました。

今回は、こうした技術・技能を上手に伝えるための工夫が「溶接品の部」の作品にも感じられました。溶接のクオリティーは、磨いてしまうとわからなくなります。完成品だけを見て、溶接のプロセスをイメージしながら技能の高さを判断するのは非常に難しい。しかし今回は、展開図からつくり方まできちんと示して、溶接の難しさを表現した作品が多かった。「WEB投票」への対応という側面もあると思いますが、技術・技能をしっかり伝えようとする傾向は、非常に良いことではないかと思います。

「デジタル技術」の活用が浸透

― 表彰式の総評では「デジタル技術の浸透」についても触れていらっしゃいました。

割澤 今回は3次元CADのような「デジタル技術」の活用が浸透してきたことを実感しました。受賞作品全体を見ると、応募資料に記載する加工工程の中で「2D/3D設計」や「CAD/CAM」を活用していることがしっかりと主張されています。

かつてのように人間の腕だけでつくるのではなく、3次元CADをはじめとするデジタル基盤を実装し、作品づくりにも駆使している。人間の頭だけでは限界があるので、難しい形状ほどこうした技術が活用されている。板金業界のみなさんにとって「デジタル技術」は「使える道具」として抵抗なく受け入れられてきていると感じます。

「技術」を使ってどうやってつくるか考えることも「技能」であり、それが板金フェアの本質です。「技術」を使えば誰もが同じようにつくれるわけではなく、「技術」を活用する中にもノウハウがあり、工夫があり、試行錯誤がある。今回の板金フェアでは、「デジタル技術」と「技能」のマッチングがよく見えてきたと感じています。

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プロフィール

割澤 伸一(わりさわ・しんいち)
1966年生まれ。広島県出身。東京大学工学部機械工学科卒業、東京大学大学院工学系研究科修了、博士(工学)。東京工業大学精密工学研究所助手、東京大学大学院工学系研究科講師、准教授を経て、2015年から現職。2010年4月から1年間、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員。専門は人間環境情報学、ナノ・マイクロ加工、生産システム。

つづきは本誌2023年5月号でご購読下さい。

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